寝顔拝見の特等席

日差しは眩しいけれど、割りと気持ちの良い晴れの日の午後。
珍しくうとうとと船を漕いでいるなと隣の席の名前の横顔を眺めて、また意味の分からないくらいつまらない古典の授業。一節を朗読する教師の声を聞き流していた。
授業中静かにしていて、テストの点さえ取れば評点をくれる教師だから、特に気にすることなく余所見ができる有り難い授業ではあるんだけどつまらなさすぎるのって問題だよな。

隣の席になって久しい我らがマネージャーは授業中には謎の真面目さを発揮して、涼やかな眼差しで黒板を見詰めているのが常だ。
ただし、今朝の練習の時、早めに来て準備してたから、いつもより疲れたのだろう。
午前中の授業も欠伸を噛み殺していたし、昼ごはんを食べた後の古典は相当キツいに違いなかった。

ふと、一瞬起きて黒板と自分の手元を交互に見つめて、少しだけ書き足した後、今度は頬杖をついている。
そして、眠たそうに落ちては開く目蓋が不規則なリズムで上下して、必死で眠るまいと気持ちだけは持ってるのは分かるんだけど…恐らくこの感じだと無駄な抵抗となるのではないだろうか。

ゆっくりうつむいたのと同時に、さらっと頬にかかる艶やかな髪。
普段だったらすぐにでも耳にかけているだろうに、意識が飛んでしまっているのか、動く気配は今のところない。
変わりに閉じられた目蓋を縁取る長い睫毛とか、反対に薄く開いている唇だとか無防備にこちらに傾いている寝顔をじっくり見させてもらって。
やっぱり隣の席ってすげぇ良いななんて、幸せな気分に浸って。
結局授業が終わるまで、名前を見つめ続けていた。

(やっべ。俺今すっげーにやけてるかもしんねぇ。)



◆◆◆



チャイムが鳴ると同時に、隣の彼女はピクっと小さく肩を震わせて目を開けた。
教師が慌ただしく出ていくのをぼんやりとした眼差しで見送り、渋い顔をしながら額に手を当ててはぁ、とひとつ大きな溜め息をつく。

「おはよ。」
「…お、はよう…?」
「珍しいな。居眠りなんて。」
「うん。やっちゃったよ。」

ノート後で写させて貰っていいかな?申し訳なさそうな表情で頼んできたけれど、そんなの別に何でもないし明日の授業までに写せよ、と言い添えてノートを手渡した。

「でも多分、お前が寝てる間そこまで板書増えてなかったと思うぜ。」
「えっ?」
「…何だよ。」
「…寝たタイミングとか、見てたの?」
「うん。」

むかつくと評判の、俺的には良い笑顔でウィンクを飛ばし、バッチリ見てたぜと付け足すと、途端に眉を顰めて御幸ほんと…勘弁してよ…と力なく呟いた。
いやぁ、だってなぁ?そこに見てくださいと言わんばかりに絶景が投げ出されていたら、誰だって見るだろ?見ちゃうだろ?

「こーんな寝顔拝見の特等席に俺を配置するのが悪いよな。」
「席替えくじ引きだったじゃない…御幸自身のさじ加減だよねそれ…。」
「じゃー神様の采配?」
「おこがましい。」
「ここで突然の真顔かよ。」
「真顔にもなるよー…。」

突っ伏した腕から覗く頬が紅潮してるのに満足して、背に広がる髪を鋤くように頭から毛先まで撫でる。

「可愛かったからいーんじゃね?」
「今すぐ記憶抹消して。」
「はっはっはー、んな勿体ないことするわけねーだろ。」
「ばかみゆ…。」

相変わらず頬は赤く染めたまま、くぐもった声でぶつぶつ抗議してるけど、全く可愛らしいとしか思えない。
出来れば俺の前でだけ無防備でいてくれよ、なんて、我ながら女々しいことを考えながら休憩時間中その姿を見つめ続けていた。

(やっぱ隣の席って最高だな。)




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