「あ、ねえねえ三国くん、これノート」

放課後のチャイムが鳴り、さあ今日も部活頑張るぞと鞄を肩に引っ掛け廊下に出た時に、クラスメイトの女子に呼び止められた。ああ、この間提出した数学のノートだな、と思いつつ「ありがとう」と受けとる。女子の腕には大量のノートが抱えられていた。

「すごい量だな」
「だよねー。ま、いつものことだけど。他の返却係の子、先に帰っちゃったんだよね。早く返却しないとみんな帰っちゃう」
「大変だな。手伝おうか」
「あ、ありが…きゃっ、」
半分に分けられたノートの束を受け取ろうとした時、女子の肩がびくりと跳ねた。丁度電流でも流れたように。ばさばさと腕からノートが滑り落ちる。女子は「何よ今の…」と辺りをきょろきょろと見渡し、俺を凝視した。

「…ね、ねえ三国くん、」
「え、俺!?なんか変なこと、」
「違う、後ろ、後ろ」

女子が口元をひきつらせながらおずおずと俺、の背後を指差す。もしやと思い振り向くと案の定名字がいた。

「名字、お前…」
「三国さん、部活行きますよ」

名字はいつも通りにこにこ笑っていたがその人畜無害そうな年下パワー全開の笑顔がどこか空恐ろしい。女子も名字のそのただならぬオーラを感じとったのか、「あ、ありがとう三国くん、でも大丈夫だから」と慌ててノートをかき集めると、怯えた目で名字を一瞥しそそくさと教室へ逃げていった。呆然とする俺とどや顔の名字が取り残される。


「名字、今の、やったのか?」
「…だって三国さんが女の子と喋ってるの嫌だったんですもん」
「…なるほどな」

拗ねる名字の頭をぽんぽん叩いて(またもやぱちりと若干の電流を感じた)、「行くか」と歩き出すと名字は「はーい」とついてくる。可愛い、物凄く可愛いんだけど、なんか怖い。

「さーんごーくさん」
「なんだ」
「三国さんにも、放電しちゃいましょうか」

いたずらっ子の様に微笑み唇に人差し指を当てた名字に放電されないように、これからは女子と喋る時は背後に気をつけようと誓ったのは言うまでもない。

後輩兼マネージャー兼彼女の得意技、放電

110517

ヤンデレじゃないはず
もはや帯電体質ってレベルじゃない


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