彼女の手に触れると極々小さな火花が散った。思わずびくりと指が跳ねる。 「だから駄目って言ったのに」 言葉とは裏腹に名字は悪戯っぽく笑うとやんわりと俺の手を払いのけた。 名字は酷い帯電体質だった。常に静電気を体内に溜め込んでいる。なので金属や布、人間に至るまでありとあらゆる物に触れるとバチリと火花が散る。彼女はもう慣れているらしかったが僅かな火花と電気が弾ける音は痛々しかった。 「別に触ったっていいだろ」 「痛いですよ」 「全然。だって俺の必殺技、炎使ってるんだし」 「そういう問題じゃないと思いますけどね」 既に部員が帰宅してしまった部室が静まり返る。名字は左手にはめたゴム製のスポーツ用腕時計をちらりと一瞥し、「そろそろ帰りませんか」とパイプ椅子から立ち上がった。机上に置いてあった部室の鍵を手に取ると再び弾ける火花。普段よりも音が大きいのは気のせいか。 「無理して金属触らなくてもいいんだけどなあ」 「だって、仮にも『先輩』に雑用させるわけにはいけませんって」 「仮ってなんだよ仮って」「へへへ」 軽く名字の頬をつつくと、柔らかい感触と共に迸る電気。対照的だ、となんだか面白かったのは名前には内緒だ。 「三国さん」 軽やかに鞄を肩に引っ掛けた名字は先程とは打って変わって目を伏せさせ恥ずかしそうに呟いた。「なんだ」ゆっくりゆっくりと名字に近づく。あと何センチなんだろうなあ。 「私の手もほっぺも、触るとびりびりしちゃうってようくわかりましたよね」 「まあな」 「じゃあ、唇もびりびりしちゃうのか、確かめてください」 ちろりと遠慮がちに覗いた真っ赤な舌を見て、ああこれなら名字が帯電体質じゃなくてもびりびりしちまうんだろうなあと思わず喉が鳴った。 110515 先輩と後輩 火花とか大袈裟ですが |