「飲み物の氷を噛み砕く人ってのは貧血らしいねえ」「へえ」

冷たい汗をかいたグラスにストローを突き刺しかき混ぜれば、液体と氷とガラスとが触れ合う小気味良い音がする。からんからん。うん、涼しいなあ。ここの喫茶店自体随分涼しいと思ってたけど。グラスの中でゆらゆらと踊る鮮やかなアイスレモネードがいかにも夏、って感じがする。余程うっとりとグラスを眺めていたのだろう。向かいに座る幸次郎くんが小さく笑った。

「何かおかしい?」
「別に。名前、すごく楽しそうだったから」

そうかな、と呟きストローに唇を触れさせる。ひんやりとした液体が喉を伝いすとんと胃に落ちて行く。そのままふうと息をつけば甘酸っぱいレモンの香りが鼻を抜ける。

「佐久間がこの前氷を噛み砕いてたぞ」
「あー、この前みんなでファミレス行ったときね」

幸次郎くんは手元のアイスコーヒーを眺めながらまた微笑した。ほんとに、どこまでも爽やかで困る。

「でもこれだけ暑かったら氷だって食べちゃうよね」
「限界だよなあ」
「幸次郎くん、暑くない?練習中いつも長袖でしょ」
「暑いけど、それ以上に練習の方に夢中だからな」

今日は私服な幸次郎くん。半袖から伸びる腕が逞しい。あれだ、レアってやつか。みんなが知らない幸次郎くんを知ってるみたいで思わずにやけてしまう。自分何考えてんだ。

「今年、過去最高気温叩き出すらしいよ。やってらんねー」
「また熱中症で倒れないでくれよ」
「わかってるって」

お互いに微笑むと、どちらともないグラスの氷がからんと小さな音をたてた。静かなガラス張りの店内、夏の日差しが降り注いでくる。青々とした緑が目に染みて何もかもがきらきらと光ってみえる。そこは夏だった。


110620



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