御門先輩を好きになったきっかけ。きっかけというよりはいつの間にか惹かれていた、に近いです。
サッカーは昔から大好きでしたし、頼りない自分をしっかりさせるのも兼ねて志願したサッカー部マネージャーでしたが、まさか誰かを好きになるだなんて思いもしませんでした。



ある日の放課後、練習へ行こうと昇降口を出ると鬼道総帥がいました。練習以外では滅多に見かけないので不思議です。鬼道総帥は私の姿を見ると「名字」と言いました。

「どうされたんです?」
「話したいことがある。来てくれ」

鬼道総帥はくるりと踵を返し、サッカー棟へ歩き出します。なにがなんだかわからず私はとりあえず着いて行くことにしました。
鬼道総帥は私の憧れの人の一人です。中学時代、サッカーも学業も優秀だったと聞きます。…もちろん御門先輩も、恋愛以前に私の尊敬する人です。



連れられたサッカー部の会議室に人はおらず、私と鬼道総帥は二人きりになります。扉の鍵もかけられてしまい、なんだか重々しいです。そんな空気に比例するかのように鬼道総帥は険しい顔で言いました。

「フィフスセクターは、知ってるな」
「ええ。…毎回勝敗指示が出ています」
「それについてなのだが」


いろいろとまとめると。少年サッカー界を支配するフィフスセクターから、サッカー部の監視のために各学校へと「シード」という人間が送り込まれている。そのシードが、帝国学園のサッカー部にもいるらしい。そして今の少年サッカーを変えるため、フィフスセクターに対抗する組織レジスタンス、が帝国学園を拠点に組織している。


まるで映画の中のような話です。それよりも前に、なんだか嫌な予感がしました。鬼道総帥は「少しショックだったか」と申し訳なさそうに言います。

「…いえ、ちょっと驚いただけです。突然でしたから」
「…そうか」
「それで、その、シードって誰なんですか」

鬼道総帥は一瞬ためらった様子でしたが、ゆっくりと口を開きました。

「今のところはっきりしているのは龍崎皇児、飛鳥寺朔也。それと…キャプテンの御門春馬だ」

…御門先輩。まさか、そんな。御門先輩がフィフスセクターから送り込まれているなんて。どくどくと心臓が脈を打ちます。嫌な予感というのはこのことだったのかもしれない。どうしていいのかさっぱりわかりません。まるで頭が真っ白になったみたいでした。

「…私、どうすればいいんでしょう」
「とりあえず次の雷門との試合でシードを完全に炙り出す。雷門も反乱分子の一つだからな」
「……」
「それから言うまでもないが、この話はくれぐれも他言無用で頼む」

私は無言で頷きました。誰かに話す気力なんて到底ありません。力なく突っ立つ私に、鬼道総帥は気づかうように声をかけてくれます。…申し訳ないです。

「お前はマネージャーの中でも一番働いてくれるし、優秀だからな。俺はお前を信頼している。雅野も事情は知っているから、もしなにかあれば声をかけてみるといい」

そう言って鬼道総帥は鍵を開け、会議室を後にしました。緊張で張り詰めた空気が解けたようでしたが、私の身体はまだ強ばっています。


鬼道総帥がこんな重大な話を私にしたということは、私はレジスタンス、という組織側に関係があることになります。つまり、つまり、フィフスセクターの御門先輩とは必然的に反対の立場になるというわけです。もっと悪く言えば、敵対。本当に、わけがわかりません。

じわじわと目の裏が熱くなってきます。気づいた時には会議室を飛び出し、校門まで走ってしまっていました。唇が震え、目の前の景色がぐにゃりと曲がります。

こんな話、黙っていてくれればよかったのに。鬼道総帥の御門先輩と関わるなと言わんばかりの口調。行き場の無い感情が胸の中でぐるぐるしています。もし私と御門先輩が出会ったのがサッカー部でなく、御門先輩もフィフスセクターとの関係なんてなければ、こうもどうしようもなく苦しまなくてもよかったのかもしれません。


110921


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