トレンドの、とは言い難いけれど、今時風の小花が散ったワンピースとそれに合わせたパンプス。お姉ちゃんのお下がりのパンプスは少しよれているけれど、ワンピースととても相性がいい。そんな風に誰かと会うわけでもなくおしゃれして出かけるのは楽しいものだ。 駅前にあるファンシーショップは普段はうるさい女子中高生の溜まり場だけれど、今日はあまり人がいなさそうなので入ってみる。いつも思うけどなんでこういう場所ってふわふわと甘い香りがするんだろう。 何かいるものあったっけ、とぼんやり考えながらカゴに山積みにされた色とりどりのマスコット人形の一つを手に取ると、後ろ髪をぐいっと引っ張られた。 「え、や、痛っ」 「おい、なにやってんの」 「…あ」 篤志先輩だ。気だるそうに襟元を崩して、それでも完璧な組み合わせとセンスでチェックのシャツを着こなしている。この人の私服は何度も見たことあるけれど、同じ服を着ているところは一度も見たことがない。 篤志先輩は私の手から淡い紫色をした熊のマスコット人形を奪い取ると鼻で笑った。 「なに、これ買うの?名前こんなに趣味悪かったっけ」 「かわいかったら何でもいいじゃないですか」 「これキモいじゃん」 「…ていうか篤志先輩こそなんでこんなところにいるんです」 さあねと篤志先輩は短く答え、向こうの棚の陰できゃっきゃと黄色い声を上げる女の子達ににんまりと笑った。途端に声は一層高くなる。 「嘘。気分転換にその辺歩いてたら名前がいたから入ってみただけ」 「……」 「それより今一人なんだろ、出かけたいなら俺に連絡すりゃあいいのに。デートしようって」 「今日は一人で出かけたい気分だったんです」 むすりと言い返すと篤志先輩は冷たいなあと喉をくつくつ言わせた。 「これからの予定は?」 「別に。アイスでも食べて帰ろうかなって」 「沢山のカップルの中一人で食べるアイスか。悲しいな、悲しすぎる」 …彼の言いたいことはわかった。遠回しの嫌味もこれからデートしようっていうのも、私と一緒にいたいっていうのも。溜め息をついて「いいですよ」と言うと、篤志先輩は満足そうに目を細めた。 「よし。決まりだな」 篤志先輩は手にしていたマスコットと一緒にカゴに積まれた他のマスコットを2、3個ひっ掴む。そして空いた手で私の手を引いた。 「この人形、なかなかかわいらしく見えてきたよ。ペアでつけるか」 「あれえ、篤志先輩も趣味悪かったんですね」 そう言って二人で顔を見合せて笑う。繋がれた手をほんの少し握り返した。 110829 |