「あっ、赤也くん!」

放課後、部活が終わって廊下をうろうろしてたら、後ろから声を掛けられて。
聞き覚えのあるその声に、俺は首はおろか、全身をくるりと後ろに返した。

「花月先輩!!」

そう、そこにいたのは大好きな花月先輩。
仁王先輩たちと同じクラスで、文化祭の時に先輩たちのクラスの出し物を覗きに行って、ものの見事な一目惚れだった。
それで、先輩たちに恥を忍んでそれを打ち明けて…と言いたいところだけど、何故か即刻見破られた。…まぁそこはいい、とにかく血も涙も滲む猛アタックの末、なんとかここまでこぎつけた。
見た目がどストライクの先輩は、中身もそりゃもう素晴らしく俺の好みだった。
ただ一つ欠点を言うとするならば…

「赤也くん部活終わったの?今から帰り?」
「っス!今から帰りっス!先輩、一緒に帰りましょうよ!」
「え、いいよ〜帰ろ帰ろ!赤也くんと帰るの久しぶりだよね、嬉しい!」

そう、ここ。こんなに思わせ振りなセリフなのに実は本人は全くの無自覚。
ニコニコ笑って天然でそんなことを普通に言うんだから、ぶっちゃけ片想いの俺の心臓に悪すぎる。
なのにそんなことを誰彼構わずやってのけるから、片想いの身としては困る。現に先輩狙ってる奴も割と多い。

「?赤也くん、どしたの?帰らないの?」
「え、あ、はい!行きましょ行きましょ!」

ちゃっかり先輩のすぐ隣陣取って、俺達は歩きはじめた。
先輩は歩くペースが遅くて、俺の普通がちょっと速いと思ってることを知ってる。
だから、俺はわざと普通に歩く。
したら、先輩は文句言わずにちょこちょこと小走りでついて来る。
その様子があまりに可愛くて、調子に乗ってたらついつい歩くスピードが速くなってたみたいで。
先輩はきゅっ、と俺のブレザーの端を掴んで俺を止めた。

「あ、赤也くん、速い…!」
「え?あーすみません!つい」
「つい?」
「あっ、い、いや!なんもないっス!すみません」
「もー…お願いだから、後ちょっとだけゆっくり歩いて欲しいなぁ」

そういって、ちょっと膨れる先輩。
何この可愛い反応…!!
俺は口元を隠してひとしきり悶えた後、名案を思いついた。

「あ!じゃ先輩!こうしましょう!」

ぎゅっ、と先輩の手を握る。
びっくりしたのか、先輩の手が小さく跳ねた。

「あ、赤也くん!?」
「ほら、こうしたら遅れないで歩けるでしょ?」
「う、うん…」

先輩はそういうときゅっ、と俺の手を軽く握り返した。
可愛い。
可愛すぎるッス先輩…!

俺はもう舞い上がって舞い上がって、そのままスキップしそうな勢いだった。

「ずるいなぁ、赤也くんって」

…先輩の声がした。
ずるい?俺が?…なんで?

「…どういうことッスか?」
「え!あ、き、聞こえてた!?」
「ばっちり」
「あの…今のは無しに…」
「しないッスよ」
「ですよねぇ…」

先輩は仕方ないかぁ、と困ったように笑った。

「赤也くんはさ、」
「はい」
「きっと誰にでもこんなことするんだろうなぁ、って思ったの」
「…はい?」
「一緒に帰ったりとか、遅れないように手を繋いであげたりとか。あたし、事あるごとにドキドキしちゃって」
「……」
「ただでさえ免疫ないからさぁ、もう………好きな子にそれされちゃうと、なんだか期待しちゃって」

好きな子にそれされちゃうと、なんだか期待しちゃって。
……好きな子?
え、好きな子?

「うん!そ、そうゆうこと!うん!わ、忘れてね!じゃ、い、家この辺りだから!ありがとう!!」

俺が呆気に取られてる間に猛ダッシュ(多分本人的にはそう)で走り去る先輩。
…が小さくなって。消える前に俺は走り出した。


「あんなん逃げてる内に入んねーっつの!」

夕空に駆ける愛の唄
(捕まえたら、洗いざらい本音をぶちまけて、それで君にキスしよう)

(待ってろよ、先輩!)







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