弦が倒れた。

精市くんからそう連絡が入って、急いで病院に走った。
言われた病室に入ると、お医者さんとレギュラーの皆。

「花月」
「…っ弦、弦は?」

少々取り乱し気味な私を落ち着かせようと、精市くんが私の肩に手をやる。

「大丈夫、落ち着いて。お医者様の話だと風邪が過労で少し悪化してたらしいけど、もう熱も引いてるし、良かったら明日退院出来るそうだよ」

命に別状は無い、と聞いて私はその場にへたり込んだ。

「よかった…」
「あ!おい真田!大丈夫か!?」

と、その時、ブンちゃんの声がして、ベッドで眠っていた弦が目を覚ましたことを知る。

「ああ…、少々頭は眩むが、これくらい大したことはない。…迷惑をかけて済まなかったな」
「いや、俺も最近弦一郎には色々任せっぱなしだったからね。悪いことしたよ」

と、精市くんと話した後、へたり込んだままの私と目が合い、ひどく驚いた顔をした。

「花月!?」
「俺が連絡した。思ったより大丈夫で安心したみたい」

ん、と精市くんが手を差し延べてくれたから、その手を握って、立ち上がる。
その様子を不安気そうに見つめる弦。

「花月…」
「…弦のばか。なんで倒れるまで頑張るかな。…心配、したんだから…」

やばい、ちょっと、いやかなり照れ臭い。

顔に熱が集まる私の様子を察したのか、幸村くんが小さく笑った。

「そろそろ僕達はおいとましようか。なんだか邪魔みたいだし」

それを聞いてますます顔に熱が集まった。


「そうだ。明日は学校も無いし、一日休むといい。無理は良くないからね」
「だがしかし…」
「弦一郎。病み上がりに無理をされてまた倒れでもしたら、それこそ俺達は困るよ」
「む…。……分かった、そういうなら明日は休ませてもらおう」
「ああ。…それじゃあ俺達はそろそろ。お大事にね」

わずか数分後、部屋に残っているのは未だ顔から熱の引かない私と、そんな私を見つめる弦だけになった。

何を言っていいのやら。
口を開きかけては閉じる私を見かねてか、口火を切ったのは弦だった。

「その…心配をかけてすまなかった」
「え、あ…うん」
「俺としたことが体調管理を怠るとは…我ながらたるんどる!」

さらに精進せねばならん、と言う弦があまりにいつも通り過ぎて、なんとなくおかしくなって顔が緩む。
それをみて不思議そうな顔をする弦。

「む、何かおかしなことを言ったか?」
「ううん、なんにも無いよ。それより弦、明日せっかくお休み貰ったんだから、余計なことしちゃダメだよ?弦の事だからきっとすぐ鍛練とか言い出すんだから」
「………」

少し複雑そうな顔をする弦。鍛練、本気でする気だったのか。
と、そこで弦の動きが止まった。何か考えてるみたいなので、特に何も言わずにじっと見ていた。
しばらくすると、考えがまとまったのか弦がこちらを向く。…けどなんか目が泳いでる。明らかに泳いでる。心なしかちょっと顔が赤い。

「花月、その、あ、明日の事なのだが…」
「うん?」

弦が言い淀むとは珍しい。そんなに躊躇われるのか、それ。

「その、だな…」


「…良ければ、明日一日、俺と居てはくれないだろうか…?」
「へ?」
「最近テニスに打ち込みっぱなしでろくに一緒に居れていなかったからその……その、だな…。…俺が、俺が一緒に居たいのだ。頼む」

なんて言うもんだから、私の顔はまた真っ赤で、もしかしたら頭はすでに沸騰してるんじゃないだろうか。


恋熱冷めやらず
(ちょうど今頃、かな)
(ああ。弦一郎が間宮に誘いを入れてる確率100%だ)








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