どうしてこうなったんだっけ。
ああ、そうだ私が保健室でお楽しみ中の仁王くんを発見してしまったのがよくなかったんだった。
私は、起きがけの虚ろな頭でそう考えた。

昨日の夕方、私は仁王くんに告白された。
しかも、私の持論をあらかた喋った後に告白された。…仁王くん、ちゃんと話聞いてたのか。
…結論として、不本意ながら私は彼の彼女たるものになった。っていうか、上手いこと丸め込まれた。これだから頭の良いやつは怖い。

昨日買っておいた菓子パンを口に含みながら、私は靴を履いた。行ってきます、そう言わなくなってどのくらいになるだろう。
振り返るとがらんとした生活感の少ない部屋。

…まぁ、仕方がないのだと思う。
寝ても覚めても、この家には私しか居ないし、私を送る人はもう、居ないのだから。



「…で、」

どうして駅に仁王くんがいるんですか。

「仁王くん…」
「大方どうしてここに、ってなもんじゃろう。仮にも彼氏に冷たいのう」
「や、まだ何も言ってないよ」
「そう来るか。…まぁせっかくじゃし、こういうのもええかと思うて」
「せっかくって、そんなこと思っても無いくせに」

そう返事しながら歩きはじめる。隣には仁王くん。周りの女子の興味津々な視線が痛い。若干めまいがする。誰か代わって。
それからしばらくして学校に着いて、朝練があるらしいので仁王くんとは別れた。
仁王くんの後ろ姿が小さく小さく、やがて見えなくなった。

「はあ〜………」

しゃがみ込んでため息。
まだ人がほとんど居ないから出来る芸当である。
なんなんだこの無意味に急展開。少女漫画か。
…いや、少女漫画の方が主人公の本意に叶った急展開だからまだいい、私全然嬉しくないんだけど。
しかしながら、ずっとこうしても居られないので、私はそこから立ち上がり教室に向かって歩きはじめた。

それからクラスに居る分には、仁王くんは私に話し掛けてこなかった。



放課後、私は一人で教室にいた。
理由としては仁王くんを待ってるから。…いや、待たされてるから。
授業が終わって、さて今から帰ろうか、というタイミングで仁王くんに、彼の部活が終わるまで待っていてほしい、という旨を告げられた。ちなみにそれだけ言って去っていった。
それで、用も無いのに無視して帰るのは彼女うんぬん以前の問題として気が引けたからって、とりあえず待ってる私ってちょっと健気だ。

なんて思っていたら、携帯が震えた。電話だ。
ディスプレイを見てうんざりしたものの、取らないわけにはいかない相手の名がそこに映る。私は渋々電話を取った。

「…もしもし」
「ああ。久しぶりだな。…どうだ、最近は」
「別に普通だよ。いつもと変わんない。それよりねぇ、いつまでこんな無意味な電話続けるの?生活費のことは感謝してるけど、この電話に意味は見出だせないわ。私と話す時間があるなら、あの人と仲良くしてればいいじゃない」
「花月…俺はお前のことを思って」
「今更!!…っ、今更父親面、しないでよ」

父はまだ何か言っていたが、お構いなしに通話を閉じた。
喋らなくなったそれを見てため息。
ああ、すごく気分が悪い。
もう帰ってしまおうか、気分が悪くなったと明日言ったって、今なら嘘じゃない。
っていうかそもそも仁王くんここに来るのかな。…遠くから教室を確認して、待ってるのを確認しての鼻で笑ってそのまま帰る…有り得ないことも無い。昨日の彼を見てしまったせいか、なんだか安易に想像出来た。
…やっぱ馬鹿馬鹿しいや、帰ろう。こんなの柄でもないし。

鞄に手を掛け、少し足早に教室を出た…ら。

「…立ち聞きみたいになってすまんのう、すぐ声を掛けようと思ったんじゃが」
「嘘」

そこには仁王くんが居た。
神出鬼没ですかなんなんですか。








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