その日、私は歪む朝焼けを見た。



(ああ、もう10時だ)
時計を見て、今日もそんな風に思う。こんな生活も実は今日で1週間を迎える。

あの後、仁王くんから逃げるように学校を出て、家に帰り着いた。服も着替えず、何も食べずとりあえずベッドにダイブして。
ひとしきり泣いたらなんかもう涙も出なくて、結局そのままお風呂だけ入って寝た。
次の日、目覚めた私に目下最大の問題は学校に行けないということだった。
さすがの私だって、昨日あそこまで言った仁王くんに会う度胸はない。
考えに考えた末、学校を休むという結論に達した。担任には風邪をこじらせて当分行けそうにないと嘘を吐いた。普段の真面目な行いのおかげか、担任は何一つ疑問に思う事なく了承してくれた。

それが1週間前の話。結局学校に行く勇気が出ず、引きこもりっぱなしになっている。

ちなみに、携帯もあれから電源を落としたまんまだ。
もう1週間経った。そろそろ良いかもしれない。きっと、彼にはもう新しい遊び相手が出来て、よろしくやってることだろう。

きっと、未だに引きずってるのは私だけなんだ。

やっぱり少し胸が痛い。
けれど、いつまでもこうしてはいられない。
私がどれだけ立ち止まろうと、時間は止まらない。
小さく息を吐き、私は1週間ぶりに制服に腕を通した。



学校に向かうと、ちょうど担任の授業で、体はもういいのか、と心配する担任に小さく微笑み、私は席についた。
授業が終わってから同じように身を案じる友人にも、大丈夫だよ、と笑って返事をした。
不思議といえば不思議なような、当然といえば当然のような。私と仁王くんは一度としてきちんと顔を合わせなかった。

放課後、1週間分のノートを友人に借り、そのまま教室でノートを写す作業に取り組んでいた。そのせいだろう、私は気がつかなかった。廊下を叩く靴の音に。それが私の方に向かっていることに。

気付いたときには手遅れで。
がら、と音を立てたドアの向こう、見知った銀の髪。

驚愕の表情で見つめる私に困ったように笑い、そして薄い唇は言った。

「色々迷ったんじゃが、」

「どうしても、話がしとうての。でも、するかどうかはお前さんの自由じゃき。…屋上で、待っとるから」


それだけ残して。
廊下に響く足音は、やがて消えた。









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