博物館もどきの建物には「跡部」と書かれたオシャレな表札が付いていました。

忍足さんがインターホンを押すと、綺麗なスーツに包まれた柔和そうなおじいさん…はちょっとまだ早いかな…初老の男の人が出てきた。

「これはこれは忍足様。景吾様はまだ帰られておりませんが、いかがされましたか?…おや、そちらのお嬢様は…?」
「えらい久しぶりやなぁ。いや、跡部には用事あらへんのやけど、この子がな」
「うぇっ……あ、その…初めまして、間宮花月です」
「ああ、間宮様のお嬢様でしょうか?」
「え、あっ、は、はい」

お嬢様とかはじめて言われたよ…お嬢様て…。
動揺する私をよそに、執事(多分そういうアレだ)は私たちに家にはいるように促した。


「おおおぉぉぉ…」

門の向こうはイギリスであった。
ほんとにここに人住んでんのか。まじか。私なんか昨日まで総面積10畳のアパートに住んでたんだぞ。あ、アパートってなんかちょっといい感じだ。欠陥工事くさかったけど。床ぎっしぎしだったけど。

「それでは、こちらにて少しばかりお待ちください」
「あっ…は、はい」
「俺は別に構へんのやけど…まぁええか。おおきに」

執事さんがどこかに行った後、一体どこからやってきたのかメイド服のお姉さん達がやってきて、神業スピードでお茶の支度をして下がっていった。

「紅茶だ…」
「どないしたん?いまどき珍しないやろ?」
「い、いや…私の家麦茶しかなかったんで…なんだか金持ちのにおいがする」

匂いを嗅ぎながらそう呟くと、忍足さんは急にむせはじめた。

「お、忍足さん!?」
「ごほっ、けほ…あーすまんすまん、堪忍。…いやぁ、花月ちゃん面白過ぎるやろ」
「へ?私何か変なこと言いましたか?」
「いや…紅茶くらい飲むやろ普通。家で沸かさんでもコンビニで買ったりとか」
「いやぁ、紅茶買うお金があったらスーパーで特価の麦茶パック買いますよ」

また笑い出す忍足さん。なんで笑われてるんだこれ。私は真剣だ。

「ほんまになんていうか…個性的な子やなぁ。気に入ったわ」
「へ?…ありがとうございます?」

なんともよくわからない会話をしていると、用事を済ませてきたらしい執事の人がやってきた。

「お待たせいたしました。ちょうど今坊ちゃんがお帰りになられまして」
「ああ、跡部帰ってきたん?」
「ええ。お洋服を召し変えられた後、こちらに来られるそうです」
「ふーん…これからこの子となんか大事な話なんやろ?俺居ってもしゃあないなぁ……そろそろお暇するわ」
「え」
「別室もご用意出来ますが、よろしいので?」
「構へん構へん。跡部んトコちょっと寄ってから勝手に帰るわ。ほなら、おおきに」
「かしこましました。またお越し下さいませ」
「や、ちょっ、忍足さん!?」
「そういう訳や。俺みたいな部外者居ってもあれやろ?ほならな、花月ちゃん」

忍足さんはそういうと、階段を上って消えて行ってしまった。
ってちょおおおおおぉぉぉ。忍足さん速い!速いよ!ああもう見えない!
……どうしよう、一人になったら急にソワソワしてきたいや元から珍しいことばっかりで浮足立ってはいたけどなんか気まずいどうしようすごく気まずいやばい冷や汗かいてきた…いやー、このソファーふっかふかー………。だめだ全然気が紛れないぞどどどどうしよう!!

「間宮様」
「は、はい!はいなんでしょうか!」
「景吾様が来られるようです」
「え、早、ちょっ、こ、心の準備が」
「そいつが親父が言ってた友達の娘か?アーン?」

突如違う声がした。執事さんじゃない、もっと若い声。あれだ、世に言うイケボってやつだ。

「これはこれは景吾様。はい、この方が、間宮様の御令嬢、花月様でございます」

名前を呼ばれてガバッと振り向くと、そこには。

「間宮様、こちらがこの跡部家の御子息、景吾坊ちゃまです」

見るからに金持ちっぽい青年が立っていた。





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