プルルル …

何度目かのコールが鳴る。
12月3日の午後11時55分。
相手はまだ出ない。

プルルル … プッ

『花月?』
「うん、夜遅くにごめん。ちょっと話したくて」
『別にええよ』

花月とやったらいつでも大歓迎じゃ、と受話器の向こうで笑う彼に、自然と歩く足が早くなる。
寒い寒いと思ってたけど、このくらいで丁度良い。ほてった顔には十分だ。

「雅治、明日部活は?」
『ん?無いよ。じゃから遊びに行こう、って言うとったんに』
「うん、映画だよね」
『おん』
「あ、後明日は一日中家に誰もいない、っていうのも言ってたっけ」
『まぁな。もう皆おらん。今も俺一人じゃ』

うん、それ聞いた。

なんて笑いながら、私は足を止めた。
ちらりと時計を見る。まだ59分になったばかり。良かった、間に合った。

「ね、雅治」
『うん?』
「星が綺麗だよ、窓開けて」
『開けんでも見えとるもん。綺麗じゃけど、窓開けたら、寒い』
「いーからっ!開けてみてよ」
『んー…お前が言うなら、仕方ないのぅ』

ガチャ、と頭上で鍵の開く音。
時計を見た。うん、ジャスト。私えらい。

「誕生日おめでと!雅治!」

受話器からじゃなくて、直接。
私は声を少し張り上げて言った。
案の定、雅治はすごくきょとんとした顔で私を見下ろしていた。しばらくそうした後、ちょっ、そこで待っといてっ!と慌てたように返し、窓もそのままバタバタと階段を駆け降りる音が聞こえた。
と、思ったらバン、とドアの開く音。

「花月!」
「さっすがテニス部、速いね」

と私が言ってる間も雅治はこちらに歩く足を止めずに、私は言い終わってすぐ抱きしめられた。あー、ぬくい。

「こんなに冷となって…」
「だって、雅治に直接、1番に、言いたかったんだもん。おめでとう、って。そしたらこれが1番良いかなって思って」
「お前アホじゃろ…」
「なんだとー。せっかく祝いに来てあげたのにアホなんてひどいー」

そういうと、クツクツと笑う声。つられて私も笑った。

「うーそ。ありがと」
「ふふ、どーいたしまして。あ、ねぇ、雅治」
「ん?」
「あんね、今日やっぱ出掛けるのやめにしない?」
「へ?ええけど…なして?花月が見たがっとったやつじゃろ?」
「んー、映画もいいけど、やっぱり雅治と2人でいたいかなぁ、って。と、いうわけで、とりあえずその手始めとして、今晩は家に泊めて欲しいなー、とか」

そう笑うと、雅治は驚いたように目を開く。
お泊りセットも持ってきたんだけど、駄目?と言う頃には、何故か口元に手を当てて俯いてしまった。
あれ、予想外。

「雅治?」

不思議そうに顔を覗きこむと、その瞬間いきなり抱き寄せられて、そのままキス。
何事かと思いながらとりあえずそれに応える。
唇を離した後、雅治にもう一回強く抱きしめられる。

「あー、もう、ほんまに……可愛すぎじゃ」
「へ?」
「可愛い、可愛い可愛い可愛すぎ!まーくんメロメロなんじゃけど!」

きゅーっ、と散々抱きしめられた後、雅治は私を顔を覗いた。

「どうぞ泊まりんしゃい。今日は一日、ずーっと一緒におろ」
「うん!」


月の下であなたと

(…ただし)
(ん?)
(何されても文句無し、な)
(え。)
(だって今日俺誕生日じゃし?)
(えええええ)








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