耳元で、布が擦れた音がして。あぁそうか、夜更かしをしてしまったから寝てしまったんだ。
酸素が十分に行き渡っていないであろう脳が重い瞼を開こうと懸命に命令を出している筈なのにどうやら眼球は刺激を拒んでいるらしい。うっすらと目を開くとカーテンから射す光と目の前の真っ白な布が反射して眩しくて、すぐに目を閉じた。
 
滲み出る涙。眼球を保護するための生理的な涙。手を伸ばすより先に、自分の指よりごつごつして大きなそれで拭い取られてしまった。また目の前でかさりと擦れた白い布の正体は、彼の着ているワイシャツだった。
 
「すまない、起こしてしまったか?」
 
まだぼんやりする視界。起き上がろうとしたのに掛け布団と彼の腕がそれを遮る。無理に起きなくてもいいと言ってくれた彼の言葉に甘えてまた目を閉じた。彼の家に遊びに行くからと気合いを入れてシャンプーをした髪の毛を一束掬い上げられては彼の指の隙間からさらさらと滑り落ちる。心地よい音。
 
「トイレから戻ったらことみが寝ていてびっくりした」
「寝不足だったのか?」
「俺の部活がオフだったからとはいえ平日にすまない」
 
返事をしなくても。優しい彼のことだ、きっと理解してくれているのだろう。とにかく眠い、酸素を脳に運び入れる為に大きく口を開けた。きっと今の自分の顔はいつもより不細工に違いなかったけれど、彼ならどんな私でも受け入れてくれると信じているから。伸びている彼の腕に頭を遠慮がちに乗せて。もう一度。
 
 
おやすみなさい。
 
 
 
源田幸次郎とお昼寝
 
 
 
 
 
 
2011.0328



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テーマ「人外ファンタジー」
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