不動明王のバレンタイン
 
*不動が帝国サッカー部に在籍している設定
*名前変換なし
 
 
 
 
 
 
 
 
ちっ、と。部室に行くなり不動は舌打ちをしざるを得ない状況に陥っていた。
 
「何だ不動、羨ましいのかよ」
 
佐久間はけらけらしている。が、自分の周囲にある山を見て、どこかげっそりもしているようである。彼の隣にいる源田、鬼道もまたその様子だった。
 
2月14日、世間は所謂バレンタインデーである。
帝国サッカー部の部室内に聳え立つ3つの山は、大きい順に佐久間、源田、鬼道の所有山、もといファンからのチョコレートだった。それは背の高い源田の身長すら余裕で超える。中等部の女子からは当然のこと、小等部や高等部、更には大学部や他校生からも貰うのだからこの量も納得である。
今日の部活は、実質このチョコレートの処分についてだった。
 
「俺は家に持ち帰って使用人に差し入れれば何とかなるが。源田と佐久間はどうするんだ」
「甘いものは苦手なんだ、だから近所の小学生にでも渡そうかと思う」
「俺は家族に渡す、量が量だけに、家に持ち帰るのが大変そうだな」
 
鬼道に問われれば苦笑いして答える二人。
彼らに渡した女子は、まさか自分の渡したものがこのようにされていることなど知らないだろう、と不動は哀れに思いながら溜め息を吐く。
 
「俺、帰るわー」
 
ただそう言い残して不動は部室棟を後にした。
 
 
(馬鹿馬鹿しい、何がバレンタインだ。)
源田や鬼道、佐久間の苦悩が微塵もわからない。バレンタインデーなど、自分になど無縁ということくらい、不動は理解していた。
さっさと帰って寝ようと、玄関のローファーを出すために靴箱を開けた。
 
 
 
視界に入ったのはラッピングがされたピンクの小さな包み。不動は一度靴箱を閉め、深呼吸してからもう一度靴箱を開けた。それでも事態は変わらず、自分の前には包みがしっかりとあった。
 
周囲に人がいないか確認して、中からそれをそっと出す。中身は、チョコレート。靴の中に小さなメモが落ちていた。
 
 
不動くんへ
 
なんだか渡しづらくてこんなかたちになっちゃいました。ごめんなさい。いつもサッカーお疲れ様です。私は一生懸命に練習している不動くんが好きです。これからも頑張ってください
 
PS
甘いのが苦手そうだったので、ビターにしてみました。食べてください
 



女子らしい、小さくて丸い字。名前は書いてない。
 
普段なら匿名なんて不気味がるが、今日だけはと。一人靴箱前で小さくガッツポーズをするのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


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