※一部背後注意
※源田君が暗いです
 
 
 
 
 
 
 
 
 
幸次郎に避けられている。別れてから、ずっと。
 
 
別れを切り出したのは私だった。幸次郎といる時間が幸せで、幸次郎も嬉しそうだったけど、でもいつからか私のせいで幸次郎はサッカーを思う存分に出来ていないのでは、と感じるようになった。
成績不振が続く幸次郎を私は励ますことしか出来ない。そのたびに幸次郎は私に気遣いつつ練習をしていたような気がする。私が、幸次郎を追い込んでいたのかもしれない。
 
だから幸次郎が私を嫌いになる前に、友達に戻ろう、って言った。
幸次郎は悲しそうに「・・・そうか」と言ったきり、何も言わずに私の横をすり抜けて行ってしまった。
その時はこれでよかったのだと自分に言い聞かせたけれど、次の日から幸次郎は挨拶どころか、目さえも合わせてくれなくなったのだ。
 
 
幸次郎とはたくさん一緒に過ごした。キスだって、ときどきだけれど身体を重ねたりもした。幸次郎が"美希"と私の名前を呼びながら抱きしめてくれると嬉しくて涙が出た。私が泣くと幸次郎はいつも涙をぬぐって、頭を撫でてくれた。・・・避けられている今となっては、その温もりすら恋しい。
 
気まずくなりたくて別れたんじゃないのに。付き合う前みたいに、楽しく話したり馬鹿言い合ったり。そういう関係に戻りたかっただけなのに。
 
 
 
何ヶ月もこの関係が続いたある日、私は廊下で部活へ向かう途中の幸次郎とすれ違った。相変わらず目を合わせてくれないし、私が視界に入った途端に下を向いて早足で立ち去ろうとした。私は我慢できなくて、幸次郎の腕を思いきり引いた。
私のまさかの行動に幸次郎は目を見開いて驚いていた。でも何とか立ち止まってくれたことに思わず私は一息ついた。
 
「・・・なんだ」
 
幸次郎の低い声が、日の当たらない部室棟へと続く廊下に木霊した。何の感情も込められていないその声を聞いただけで涙が出そうになるのをぐっと堪えて、私はずっと抑えていた言葉を吐き出した。
 
「何で、私を避けるの?」
「・・・」
「幸次郎とこんな風になりたくて別れたわけじゃないのに・・・」
「・・・」
「ねぇ、何で・・・?」
「・・・中野は俺と、友達として接することが出来るのか?」
 
 
やっと開かれた幸次郎の口から出た言葉に、私は思わず、え?と声を漏らした。以前は名前で呼んでくれていたのに。苗字で私を呼ぶ幸次郎の表情は、苦しそうに歪んでいた。私の知らない幸次郎の顔だった。
 
「お前は俺の気持ちを考えたことがあるか?愛していたお前に、いきなり理由もわからないまま捨てられた、俺の気持ちを」
「そ、れは・・・」
「お前を見るだけで、付き合っていた頃を思い出してしまう。楽しかったことも、厭らしいことも、全部」
「・・・」
「・・・一線を越えた付き合いをしていた俺達に、"元通り"なんて無理、なんだ」
 
 
 
俯いている幸次郎からは、もう表情を読み取ることが出来なかった。何も言えなくなった私を他所に、そのまま幸次郎は早足で私の前から立ち去ってしまった。
 
あぁ、なんて私は自己中心的だったのだろう。幸次郎の本当の気持ち一つ考えられなくて、自分が寂しくなったから彼に甘えて。甘えた先にはもう何もないというのに。
 
 
無理だったね
 
 
冷たい廊下に一人残された私は、
幸次郎の心を抉って初めて。
 
 
 
やっと、彼の心の内を理解する。
 
 
 
 
 
 

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