*4500キリ番フリリク
 
 
 
 
 
 
 

「起きろ、美希」
「中野さーん、起きてくださーい」
「今起きなきゃバットで殴るからな」
 
最後の一言でガバッと起きた。
え?寝ぼけていたからかな、今殴るとか聞こえたんだけど。
 
「イイコイイコ、よく起きました」
 
目を擦って周囲をよく見るとバットを担いだ咲山君と、隣には洞面君と辺見君。なぜか三人ともスーツ着用だ。スーツにバットって似合わないな・・・おっと口が滑った。
 
「えっと、何しに来たの?」
 
私今見ての通りに起き抜けの顔なんだけど。そう言うと咲山君が呆れたようにふーっと息を吐いてチラッと辺見君を見る、詳しくは辺見君に聞け、だそうだ。説明を任された辺見君は面倒くさそうに頬を数回掻いた。
 
「説明が面倒なんだけどな、我々の王様からのお呼び出しってことだ」
「は?王様?」
「何寝ぼけてるんですかー中野さん、帝国の王様といえば鬼道さんでしょう?」
 
さも当然とでもいうように説明する洞面君。いやいや、説明が彎曲過ぎてわからなかったよ。でも鬼道君がいきなり私に何の用事だろう。この前借りたマチ針返せとかかな?まだ使ってる途中だよ・・・。
 
「何ブツクサ言ってんだよ、ほれ、早くベッドから出ろ。そして着替えろ」
 
咲山君が肩にバットぽんぽんし始めた、まずい。彼がこの仕草をするときは大抵苛々し始めるときだ。私は迅速にベッドから這い出て制服に手を伸ばそうとした。
その瞬間に辺見君がぱんぱんと手を二回叩いた。すると何処からかこれまたスーツ姿の五条さんと万丈君、大野君が現れた。大野君の腕の中には、女性用のピンクのドレスとパンプス。
 
「ククッ、中野さんに合ったドレスを見立てました・・・是非着てほしいものです・・・ククッ」
「着替えた後は言ってくれ、俺が髪を綺麗に結えてやる」
 
相変わらず(失礼だけど)不気味に笑う五条さんだけど、ドレスはとっても可愛い。大野君から受け取ってみるとどうやら丈やサイズもぴったりのようだ。・・・五条さん、侮れないね。
着替え終えると既に用意されているアイロンやら化粧品やらと共に万丈君と洞面君が部屋へ入ってきた。万丈君がヘアメイク担当、洞面君がフェイスメイク担当らしい。その手際のよさと技量の高さにはびっくりした。ナチュラルメイクなのに目がきらきらしてたり、髪がくるんってなってたり。普段の私とは大違い、というか鬼道君に会うだけなのに何でここまでしなくちゃいけないの。
 
「はい美希さん、出来ましたよー」
「おーい、終わったぞ」
 
万丈君が裏手に声を掛けると辺見君がちょうどどこかと通話を終えて戻ってきたところだった。これから鬼道さんの邸宅へ私を連れて行くらしく、寺門君が慌しく車の手配をしていた。みんな頑張るのね。
 
「ほら、行くぞ」
 
私があれこれ考えている間に外に車が到着したらしい。慣れないパンプスのヒールに戸惑っていると寺門君が手をとって車までエスコートしてくれた。私が乗り込んだ車に辺見君と咲山君が同伴して、車は鬼道邸宅まで走った。
 
 
 
 
数分後、私達を乗せた車は鬼道邸宅に到着した。展開が早すぎやしないかな、大丈夫だろうか。というか、鬼道君の家がお金持ちなのは知っていたけどこの家は広すぎると思う。どんだけゼイタクな暮らしをしているんだ鬼道君。
相変わらず寺門君に支えられながらバランスを取っていると中から鬼道君が出てきた。のはいい、私は鬼道君の格好に唖然とした。マントとゴーグルはいつも通りなんだけど、マントの下の格好が・・・王様みたいだ。ほら、御伽話に出てくるようなかぼちゃパンツを穿いている、あんな王様。正直恥ずかしい格好なのに鬼道君はいつものドヤ顔で私を歓迎してくれた。
 
「待っていたぞ中野。さあ入れ」
「えっと・・・お邪魔します」
 
靴はそのままでいいと言われてよろめきながらも通された部屋へ入る。鬼道君の部屋ってわけでもなさそうな、来客用の部屋。適当に座って待っていろという鬼道君のお言葉に甘えて部屋の中央にあるソファへ腰を下ろす。座ってドレスがしわにならないだろうかと心配していたけど、思いのほかソファがふかふかしていたから問題ないと思う。本当に綺麗な家だな。
 
 
「おい、何ぼけっとしてんだよ美希」
 
本日何度目だろう、私はそんなにぼけっとしてないと思うんだけどな。声の主を確かめるようにその方向へ顔を向けるとそこにいたのは白いスーツを着た佐久間君。グレーのスーツが良く似合う源田君。ボーダーのスーツをおしゃれに着こなしている成神君。そしてその三人の後ろには鬼道君が立っていた。
 
「わー!!美希センパイってばドレス似合うー!!めっちゃかわいいっ」
「へっ、馬子にも何とやらだな」
 
成神君がせっかく褒めてくれてくれたのに、佐久間君がそれに水をさした。
 
「ひっどい!!嬉しかったのに・・・」
「そうですよ佐久間センパイ、酷いじゃないですか!美希センパイ、佐久間センパイのことなんて放っておいて俺とデートに行きましょう!!」
「はっ・・・?!デート!?」
「はいッ、・・・ってあれ?鬼道さんから聞かなかったんですか?」
 
私はすかさず鬼道君の方を見ると、彼は思い出したように私にこう告げたのだ。
 
「お前には帝国サッカー王国の姫になってもらう。王子候補はその三人だ」
「え・・・」
「俺は別にお前のことなんていらないんだがな、鬼道さんがどうしても、って言うから、その・・・」
「な、何よ」
「に・・・似合ってるんだよブース!!」
 
私から背けられた佐久間君の顔は耳まで真っ赤で、そこまでして私のことを褒めてくれるなんてちょっとびっくりだ。最後の一言が余計だけど。それを聞いて黙っていないのが成神君だった。
 
「佐久間センパイになんて美希センパイは渡しませんから!!」
「美希は俺が貰ってやるんだよ、青二才は引っ込んでろ」
「なっ、何ですってー!?美希センパイ、どっちが好みですか?」
「勿論、この俺だよなぁ?美希」
 
じりじりと私に寄ってくる二人。どっちが好きだなんて・・・急に言われてもわからないし。第一そんな目で見たことない。恐ろしい二人の喧騒に押されて私はつい後ずさりしてした。すると背中が何かにとんっと当たった。くそう、逃げ場なしか・・・。
 
「中野が自ら俺の胸に飛び込んでくれるなんてな」
 
背中に当たったはずの何かから声がして、ふと見上げると、視線の先にはにっこりと笑う源田君がいた。え?じゃあ当たったのは源田君の身体・・・。
 
「中野は、俺のものになるのだろう?」
「は、はいっ・・・って、え・・・?」
 
万遍の笑みで急に言ってくるからつい反応してしまったけど、えっ・・・これって盛大に何かをミスったよね。だって源田君の目がきらきらしてるし・・・。
 
「そうか!!俺のお嫁さんになってくれるのだな!?」
「えっ・・・」
「そうと決まれば誓いのキスだ!!中野、愛しているぞ!!」
「ちょ、ちょっと待って・・・!!」
 
私の制止も聞かずに源田君の顔は私のそれにどんどん近付いてくる。ちょっ、どうしよう、私、初キスなのに・・・!!
 
あと数センチ・・・
 
 
 
 
 
「中野、起きろ。もうHRは終わってしまったぞ」
 
肩を揺さぶられ、重たい頭を無理やり持ち上げるとそこには私の顔を覗き込んでにっこりしている源田君がいた。あれ?じゃあ今までのって、夢?
 
 
What's happen?
 
 
恥ずかしい、中学生になってまでこんな恥ずかしい夢を見るなんて。全く恥ずかしい。しかもオチが今目の前にいる源田君とのキス未遂なんて・・・"夢は願望の表れ"?まさか。とにかく恥ずかしさで私は顔が真っ赤だ。そんな私の内なんて知らずに源田君は相変わらずにこにこした笑顔を向けてくる。降参、参った。KOG様には勝てません。だからしばらくは放っておいて・・・
 
「中野、一緒に帰ろうか」
 
ああ、私はどんな顔してこの人の隣を歩けばいいのだろう。
どうせこんなに恥ずかしい思いをするなら、せめて夢の中でだけでも素直になっとけばよかった・・・なんてね。
 
 
源田君に片思いしていることが、この顔の赤みでばれませんように。
 
 
 
 
 

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