キミと友達の続きです。
 
 
 
「なぁ、源田。あのネコ。本当に捨て猫なのか?」
 
休日の部活の休憩時間、佐久間が俺にふと言葉をこぼした。
あれから辺見や後輩も美希を見に家へ訪ね来たのだが、不思議なことに佐久間だけ懐かない。佐久間にとって余程の屈辱なのだろう。最近はどうすれば美希に懐かれるのだろうとか美希の好む物を捧げるなど毎日のようにぼやいていた。だから今日の佐久間の一言に俺は少し違和感を感じた。
 
「美希ってさ、首輪しないで道端でプルプルしてたんだろ?」
「そうだが」
「迷い猫なんじゃねーの」
「…確かに、な」
 
言われてみればそうかもしれない。その時は何も考えずに連れてきてしまったが…あの日からもう二週間は経っている、もし美希に本当の飼い主がいたとしたら。きっと悲しんでいることだろう。ああ、俺は何て馬鹿なことをしてしまったのだろう。
 
考え出すと嫌な思考は止むことはなく、俺の中でぐるぐると回り始める。それは帰宅して美希と玩具を使ってじゃれていても変わることはなかった。
 
「…美希、散歩に行かないか」
 
にゃー?
 
いてもたってもいられなくなって、俺を見つめる小さな美希の体を抱き上げ外へ出た。
 
あの日の道を辿って、美希と出会った場所までゆっくりと歩いた。家から一歩も出たことのない美希にとって、移り変わる風景は興味津々。それでも俺の腕の中でじっとしている美希が愛おしくて頭を優しく撫でた。
 
そんなこんなで目的地に到着したはいい。だが来たはいいがこれからどうする、立ち往生していても仕方がない。美希を抱えながらどうしたものかと悩む。
 
「幸……っ!!」
 
にゃー
 
「美希!?」
 
すると後ろから声がして、反応した美希が俺の腕からするりと抜け出し声のした方へ駆けていった。
声の主は、隣のクラスの中野だった。一度も話したことがない俺の意中の女子。美希を抱き上げて俺が好きな柔らかい笑顔を浮かべている。
美希を保護した一連の流れについて説明すると中野は俺に深々と頭を下げた。中野を目の前にして俺は普段より饒舌だった気がする。
 
「俺はこれで。じゃあな美希」
「…!!あの、美希って…」
「…!!」
 
彼女の前でボロを出さないようにと早急に帰ろうとしたところで早速出してしまった。彼女の顔を見るといきなり自分の下の名前が呼ばれたことに驚いているようだった。
まずい、非常にまずい。どう説明してくれよう。まさか貴女のことが好きで好きで仕方なくて保護した猫に名付けて可愛がっていました、などとは言えない。言った日には彼女にドン引きされて二度と口を利いてもらえなくなるのは目に見えている。
何とか誤魔化そうと「生き物に命名するのは難しいよな」などと発言したはいいものの、これでは墓穴を掘ってしまっていると気付いて心の中で自分を罵倒した。
 
そっと彼女の表情を伺うと彼女は何故か少し頬を赤らめて、こう言ったのだ。
 
「私は、好きな人の名前を借りてるよ」
 
ね、幸?と美希に声を掛けると美希はいつも俺にしたように、にゃーと相槌を打った。
俺はそんなやり取りから少しだけ自分に都合良く解釈しかけたが、そんなことはないと頭を振り彼女に背を向ける。そんな俺を中野は呼び止めた。
 
「源田君、よかったらたまに幸に会いに来てあげてね」
 
 
キミとまたね?
 
 
にこりと頬を染めながらこちらに顔を向けた中野を愛しいと思わずにはいられなかった。へたれとでも何でも言えばいい。
 
次の休みに美希の好きな玩具を手に中野の家へ向かったのだった。
 
 
 


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