携帯が卓上で震えていた。
液晶に浮かんだのは佐久間の彼女である中野の名前。例に洩れず佐久間との惚気か、はたまた愚痴か。通話ボタンを押して携帯を耳に当てる。
そこには俺の予測に反し、すすり泣く中野の声がした。
 
『幸次郎・・・別れちゃった』
 
ぽつり、ぽつりと呟く彼女の言葉に耳を傾ける。
どうやら佐久間は何の前触れもなく突然別れ話を切り出したという。しかも理由もなしに。何かあったのか、俺が何か知っているかもしれないと電話してきたという。
 
「すまない、俺は何も聞いていないんだ。」
『そっか・・・ごめんね急に』
「いや・・・」
 
中野がどれだけ佐久間のことが好きだったか、泣き止まない中野でよくわかる。
でも彼女は気付いていないだろう。俺が中野のことをずっと好きだったということを。それを抜きにしても今は俺が中野を慰めてやりたいと思った。だから思い切った行動に出た。
 
「中野、明日一緒に出かけないか?」
 
 
***
 
 
中野と駅で待ち合わせをした。
いつもは横に流してある中野の前髪が、今日は腫れぼったい目を隠していた。
 
大きなショッピングモールで中野の服を見た。佐久間が女に見られるのを嫌がり二人の時は滅多に服を見なかったと聞いていたからだ。
試着していたワンピースを着た中野を見て、似合っていると褒めると中野は照れていた。あぁ、彼女は佐久間にこんな顔を向けていたのだろうか。
ゲームセンターで彼女の欲しがっていたぬいぐるみを取ってやった。
「幸次郎がUFOキャッチャー得意って、意外すぎるね」と言って笑う彼女が物凄く愛しかった。
 
買った服が入った袋とぬいぐるみを持ってやり、家まで中野を送った。
 
「幸次郎、ありがとう」
「楽になったか?」
「うん、ちょっとだけ。」
 
このまま中野を俺のものに出来たら。
隣で悲しそうに笑う中野を見るとそんな考えは一瞬にして消えた。そんな卑怯なこと、俺はできそうにない。所詮俺は中野にとって面倒見の良い兄のような存在なのだ、今日の外出でそう感じた。
だから俺はなるべく優しい表情でこう言うしかないのだ。
 
「俺に出来ることがあったらいつでも言ってくれ、力になる」
 
 手の届く距離にいたって、
 
 
永遠に届かない、貴方の心。
 
 
 
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略奪愛にしようか散々迷った結果!!
源田君の悲しい恋物語
 
 
 

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