「エドガーがキスしてくれない」
 
私がぼそりと呟くと目の前でフィリップがダージリン・ティーを盛大に噴出した。汚い。
 
「エドガーがいなくなった途端にそんなことを言わないでください!!」
「いいじゃない、ここだけの話ってことで」
「よくないですよ・・・彼から美希に品がなくなったって愚痴を聞かなくてはいけなくなるのは俺なんですから」
 
エドガーはみんなでサッカーをするとか言ってジャパンエリアに出張中。その間私に他の男が寄らないようにと番犬代わりにフィリップを置いていった。今私とフィリップは宿舎のテラスでティータイム。せっかく一緒にいるのだから何か会話でもと思いついたジャンルがたまたま恋愛だっただけで、特に下品なことを言ったつもりはなかったのだが。
 
「レディは普通茶の場でこういう話をしないものです」
「へーそう。これでも本気で悩んでるんだけどなー」
「・・・俺で良ければ話を聞きましょう」
 
流石フィリップ、私がちょっと辛そうな顔をするとすぐ手を差し伸べてくれるし、私はいつもそれに甘える。エドガーに憧れた私を彼と出会わせてくれたのもフィリップだったし、交際を始めてから私の愚痴を散々に聞いてくれたのもフィリップだ。そのお蔭で私はエドガーとこうして付き合い続けることが出来ているのだが。
・・・如何せんエドガーは今サッカーに夢中で。FFI中くらい仕方がないと思っていたのだが先週のデートでその考えを大きく覆すことになった。
 
***
 
私とエドガーがライオコット島で一番大きなショッピングモールへ出掛けた帰りの夜、イギリスエリアの前の噴水広場の周りはイルミネーションで彩られていてとても綺麗だった。
冬の冷え切った夜にイルミネーションの中に、手を繋いだ恋人同士の私達。シチュエーションを大事にするエドガーならこういうときに動くはず。
 
「美希・・・」
 
ほら来た。頭上から私を呼ぶ声に、ゆっくりと振り返る。白い息を吐いたエドガーは私の右頬に掌を被せて・・・。
 
「こんなに冷えてしまって。女性は身体を冷やしてはいけない。さ、早く宿舎へ帰ろう」
 
そう言って私の手を引いて宿舎までそそくさと帰ってきてしまったのだった。何もせずに。当然期待していた私はアレ?状態である。
 
***
 
 
「・・・それって普通じゃありません?」
「普通じゃない。期待くらいするでしょ、キス」
「エドガーはキスより美希の体調を気遣ったのでは・・・」
「それくらいわかるわ。・・・雰囲気はバッチリだったのに。あ、もしかして私に色気が足りないとか」
「それは考えすぎです、エドガーは貴女のことを大事にしている」
「でも・・・」
 
私がもごもごとしながら髪の毛先を弄っていると、フィリップはティーカップを皿の上に置き、意味ありげに微笑した。
 
「そんなに悩んでいるのなら、直接話せば良いじゃないですか。ねぇ、エドガー」

そう言っていつの間にか帰ってきて私の背後で微笑するエドガーへ目を向けた。驚いている私を他所に、フィリップは邪魔者は退散するとばかりに席を立ち、宿舎の奥へ引っ込んでしまった。気まずい。
 
「え、エドガー・・・」
「美希がそんなに悩んでいるなんて知らなかったよ」
「・・・いつからいたの?」
 
デートの話をしているあたりから聞いていたと言うエドガー。大事なところは全て聞かれていたようだ。恥ずかしい。
 
「私は美希に色気が無い等とは微塵にも思ってない。ただ日本のレディは異邦人の度の過ぎたスキンシップに戸惑う、とジャパンの選手から聞いていたものだからな」
「ん・・・まぁそうかもしれないけど」
 
自分の心境を本人の前で暴露ライブしてしまった手前、何とも本人と顔を見合わせて話すことが出来ない。そんな私の前で気にしていないとでも言うようにエドガーは
 
「どうせ聞かれてしまったんだ、この際思っていること全てを打ち明け合うのはどうだろう?」
 
と私の手をとった。そう言われても恥ずかしいものは恥ずかしく、目線をあわせて私の前で膝をつくエドガーの方をいつまでも向けずにいた。
わかっている、エドガーが私を大事にしてくれていることくらい。今も握られた手の体温からその思いがひしひしと伝わってくる。それに応えられない、フィリップに甘えてばかりの私が情けない。だからせめて顔くらいは向けなくてはいけないのに、そう思えば思うほど私の目はエドガーを視界に入れるのを頑なに拒んだ。
 
「・・・全く、頑固なレディだ」
 
刹那、数日前に捉えられた私の右頬に、あの時とは違う柔らかくて温かな感触が一瞬触れて、離れた。それがエドガーの唇だと気付いたのは、エドガーが次の台詞を耳元で囁いた後だった。
 
 
大事にしすぎて
 
 
「今まで手を出せずにいたのだが、もう我慢しなくていいのだな?」
 
私が返事をする前に今度は唇を、ずっと私が待ち望んでいたような温かいキスで塞がれた。鼻を掠める愛しい人の匂い。私はゆっくりと目を閉じエドガーの背に腕を回して、待ち望んでいた快楽を享受した。
 
 
 
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エドガーさんはイケメンですよね(^p^)
きっとこんな風にキスしてくれるんでしょう。キャー。
フィリップ君が格好良いです、どうしよう私フィリップ派。というか断然源田派(黙れ)
大事にしすぎてすれ違う恋より、男の方がエスコートしてくれる恋のほうが楽しい気がする。でも思い悩む恋も大好き。
 
 
 

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