幸次郎に今日の放課後の部活の手伝いを頼まれた。
いつも幸次郎がこなしているマネージャー業を受け持ってもらえないかとのこと。
 
「普段から幸次郎にはお世話になりっぱなしだし一日くらいなら大丈夫。」
 
そういうと、幸次郎から醸し出されていた遠慮がちな雰囲気が一転、彼のバックには太陽のような光が射して、表情は、にぱっ と華やかになった。
幸次郎は可愛い。可愛いことを本人が無自覚なところがまた良い。ここだけの話、私は幸次郎が大好きだ。
 
「やってくれるか!!ありがとう、美希。」
 
あいつら(多分辺見君や佐久間君あたりかな?)が我儘言うかもしれないけれど、無視してくれて構わないから。とか、いろいろ説明を受けて、幸次郎はどこかへ行ってしまった。
 
そういえば何で幸次郎は私に仕事を任せたのかわからない。
・・・他の人より信頼されてる、なんて自分に都合のいい解釈をして、勝手に幸せな気分になった。

渡されたジャージを身に纏い、私は初めて観客席からその向こうへと足を踏み入れる。と、私に気付いた幸次郎(鬼道君が転校してしまったから、今は幸次郎がキャプテンマークをしている)が集合をかけた。
みんなが一斉に私のいるベンチに集まる、佐久間君や辺見君とは面識があるけれど、他の部員さんとはない。からここにいる殆どの方とは初対面だ。
あまり人付き合いは得意じゃない私は、たくさんの視線で手には変な汗かいてくるし、きっと隣にいる幸次郎にもこの心臓の音は届いてるに違いない。・・・あ、どうでもいいけど私今幸次郎の隣、占領中。
 
「今日は私情で俺の代わりに一日マネージャー業を務めてくれる中野 美希だ。みんな迷惑をかけないように。」
 
そして今日の練習内容をざっと指示して、解散をかけた。そして私の方を見てにっこりと手を振って自分もポジションに立つために走っていってしまった。わわわ・・・その笑顔、きゅん。
 
私も頑張らなくては。
部活時間は前後半に分けられていて、それぞれに部員さん分のタオルとドリンクが必要だった、休憩時間まで1時間半もあるからこれは後回しにしても大丈夫。タオルの洗濯をしようと部室棟の方へ足を進める。
あらかじめ預かっておいた部室の鍵を使って中へ入ると、男子ばっかりなのに、といっては失礼だけど、清潔感のある部室だった。誰が掃除しているのだろう、くるりと見回すと壁に部室掃除当番表なるものが貼ってある。昨日の担当は五条君と佐久間君だったらしい。佐久間君がまじめに掃除している姿を想像すると笑えてきた。
部室の隅にあったバスケットに使用済みタオルが積んであった。そのバスケットを持って部室棟内にあるランドリーにタオルを入れた。今まで部室棟に入ったことのなかった私はまさか学園内にランドリー(しかも乾燥機付だ)があるとは思いもしなかった。ちょっとした発見。
部室に戻ってからドリンク用のボトルをサッと洗って、ドリンクの材料と洗濯済みのタオル、救急箱をカートに乗せて部室の鍵を閉めてから練習場に戻る。帝国の練習場は屋内のため、ドリンクがぬるくならなくて済む。ドリンク剤を浄水器から汲んできた水で溶く。分量どおりに作ってみたけど見た目からしてちょっと薄いと思ったから味見。適当にボトルをお借りして飲むとそうでもなかった。ボトルを洗いに行ったときに気付いたんだけど、コレ幸次郎のボトルだ、幸次郎の達筆で名前が書いてある。ちょっと得しちゃった。
ボトルを持って戻ると、ベンチに誰かが座っていた。紫の髪の毛に、ヘッドフォンをつけた子。救急箱をごそごそしている。怪我してしまったんだろうか。
 
「どうかしましたか・・?」
「うひゃっ・・・!!あぁ、びっくりしたー。なんだ、1日マネさんか。・・・キラースライド失敗しちゃって。良かったらスプレーしてもらえません?」
 
男の子は私が急に声を掛けたからびっくりして肩を泡立たせていた。私を認識すると人懐っこい笑顔と冷却スプレーを私に差し出した。ソックスを脱いで出された脚は私のそれより白くて細い・・・羨ましいなぁ。断りを入れて足首裏をそっと持ちスプレーをかける。
 
「俺、一年の成神っていいます。中野さんって源田先輩の彼女なんスか?」
 
えっ!?危なくスプレー缶を成神君の脚に落としそうになるのを防いで、成神君の方を見た。びっくりさせられた仕返しっスよ、とにんまりしている。私は慌てて否定する、本当はそうでありたいんだけどな・・・って心の中で付け足して。成神君はニヤニヤしてへぇーとか、ふーんとか言ってくる。
 
「じゃあ源田先輩、よっぽど中野さんのことがお気に入りなんスね!!今まで代理なんて誰も来なかったのに。それとも、あー、そっちのほうが可能性高いかなぁ」
「・・・え?なになに?」
「んー秘密!!後で佐久間先輩と話そうっと。ありがとうございました、じゃ!!」
 
フィールドに駆けていく楽しそうな成神君の背中。彼が言ったことは何だったのだろう、考えながらスプレー缶を救急箱に戻して幸次郎のドリンクを作り終えた頃に調度良く休憩をしらせるタイマーが鳴った。
 
ぞろぞろと戻ってくる部員さん達にカートに乗ったタオルとドリンクを勧めると、全員がありがとうと一言ずつ言いながら受け取ってくれた。良い人ばっかりでちょっと安心した。幸次郎が汗を拭きながら寄ってきて「よく働いてくれているな、助かる」と言ってくれたのは嬉しかった。
ちらっと成神君を見ると佐久間君と辺見君と談笑中で、よく見ると私、というか幸次郎の様子を見て笑っているようだった。
 
「美希、実は必殺技が進化しそうなんだ」
 
そんなことお構いなしに幸次郎は私に言う。え、必殺技って・・・誰かのことやっつけるのだろうか。進化って・・・サッカーってそんな競技だっけ?とかごちゃごちゃ考えながら相槌を打っていると休憩時間が終わった。また前半開始の時みたいに幸次郎が手振ってくれて、すごく幸せだった。
 
部員さんたちが飲み終えたドリンクのボトルを洗って所定の場所に戻し、さっきランドリーに入れた洗濯物を取りに行く。さすが新型のランドリーといったところで、既に洗濯も乾燥機も終わっていた。それを出して次はさっきの休憩の時に使ったタオルを洗濯する。幸次郎は今日の休憩分は洗わなくても明日俺がしておくからいいって言っていたけれど・・・これくらい気遣ってもいいよね。余計かな?
乾燥機にかけた後の真っ白いふわふわなタオルをひとつずつ丁寧にたたんで部室のタオル置き場に仕舞う、そしてまた後半終了後のためのタオルとドリンクの材料をカートに乗せて部室を出た。
 
ドリンクを造り終えて、幸次郎から指定された仕事は終了した。後半時間は残り40分、することもないしベンチに座って練習風景の見学でもしようとしたら佐久間君がこっちに駆けてきた。
 
「マネ代理、仕事頼んでもいいか?」
「はいっ!何でしょうか?」
「今から俺たち必殺技を出し合うから、ビデオで保存して欲しいんだ。カメラは今辺見が取りに行ったから。」
「必殺・・・?はい、わかりました」
「あとさぁ、源田のヤツ、進化する必殺技を見て欲しいらしい」
「え?」
「俺と成神が思うに、源田はアンタに日々の努力を見せることでポイントアップしたいみたいだし。俺たちが協力しようと思ってさ」
「は、はぁ・・・」
「だからちゃんと見ててやってくれよ」
 
言ってることの意味があんまり理解できなかったけれど、とりあえず私の仕事はビデオを撮ることと幸次郎を良く見ることらしい。辺見君がスタンド付カメラをセットしてくれて使い方を説明してくれた。そして佐久間君と同じようなことを言って二人はフィールドに戻る。フォワードから合図が来たからRECボタンを押した。
 
すると佐久間君達3人が走り出してゴール前まで切り込む。佐久間君が口笛を吹いて、地面からペンギンが5体・・・え?ペンギン???
 
「皇帝ペンギン、2号ッ V2!!」
 
佐久間君が蹴ったボールを更に成神君と辺見君が蹴って、5体のペンギンが猛スピードでゴール目掛けて飛んでくる。ちょっと、幸次郎直に当たったら死んじゃうんじゃ・・・
すると幸次郎は随分と余裕顔でフッと笑って、両手にバチバチっと気合い?を溜めて、それを右手に集めて、地面を高く蹴り上げて・・・
 
「フルパワーシールド V2!!」
 
拳で思いっ切り地面を叩いて、ゴール前にオレンジ色の衝撃波の壁を作った。すさまじい衝撃波の前に、佐久間君の召喚したペンギンは消滅、跳ね返ったボールを幸次郎は易々とキャッチした。・・・凄い、これが幸次郎の言ってた必殺技・・・。
ぽーっとしていると幸次郎がこっちを見て、私に向かってピースしてきた。必殺技と幸次郎のピースサインが相乗効果になって、私の心臓はどきどきしぱなっしだった・・・。
 
 
***
 
 
後半練習時間終了のタイマーが鳴り、部員さんがベンチ周辺に集まってきた。私はドリンクとタオルを渡した後、ランドリーに入れてあるタオルを急いで回収しに行った。部活が終わったあとでは部員さんが着替えるため部室に入れなくなってしまうことに気がついたから。タオルをしまって練習場へ戻るとみんなが分担してボトルを洗っている最中だった。
 
「ごめんなさい!!後は私が・・・」
「いやいいんだ、みんな今日は中野さんに感謝しているから。これくらいさせてくれないか?」
 
そう言ってきたのは三年の恵那さん(成績優秀でちょっとした有名人さんだからもともと知ってる)。恵那さんもみんなの使ったタオルをまとめてバスケットに積んでくれていた。じーんとして、思わず頭を下げてお礼を言うと恵那さんはちょっと照れていた。
部員さんたちが戻ってきて、自然に整列する。幸次郎がみんなの前に立ち、今日の大まかな反省と明日の連絡事項を伝えた。そして最後に
 
「今日一日仕事をしてくれた美希に拍手をしてやってくれ」
 
なんて言った。みんな拍手をしながらありがとーと叫んでくれた。
 
「私こそこんな貴重な経験をありがとうございました!私でよければまたいつでもお手伝いします」
 
するとまた拍手が起こる。・・・たった3時間だったけど、こんな良い人たちと一緒に過ごせて本当に幸せだった。涙ぐんで隣の幸次郎を見上げると柔らかい笑顔で頭を撫でてくれた。
 
 
 
 
帰り道、外に出るともう真っ暗だったから幸次郎が気を遣って家まで送ってくれることになった。みんなと別れて二人きりになってから、幸次郎が口を開いた。
 
「もうすぐ冬だな。美希、寒くないか?」
「ちょっと寒いけど今興奮してるから大丈夫!!」
「何だそれ。だがほら、こんなに真っ赤にして。やっぱり寒いんじゃないか」
 
幸次郎は笑いながらすっと両掌を私の頬に当てた。風に当たって冷たくなった頬に幸次郎の掌の熱が浸透して気持ち良い。幸次郎は自分がしていたマフラーを取ると私の首にそっとかけてくれた。
 
「これで美希が風邪引いたら申し訳ないから、それやる。今日のお礼」
「えっ悪いよそんなの幸次郎が・・・」
「俺は練習した後で発熱してるから大丈夫」
 
ありがと、と呟くと幸次郎は穏やかな表情を浮かべながら私の頭を撫でた。気がつけば私の家の前まであと数十メートルの距離。もっと幸次郎と一緒にいたいという気持ちをぐっと我慢して、もうここまでで大丈夫だよ、と伝えた。
 
「じゃあまた明日、学校でな。」
 
幸次郎が背を向けてもと歩いた道を戻る、その姿を見て私は言い忘れていたことを思い出して幸次郎を呼び止めた。
 
「幸次郎っ、必殺技も幸次郎もカッコ良かったよ!!」
 
幸次郎が振り向いて目を大きく見開いていたけれど、言った直後恥ずかしくなった私はすぐに背を向け数十メートルの距離を走った。
秋風がマフラーから香る幸次郎の匂いを私に運ぶ。玄関のドアを閉めてから、あの時の幸次郎の顔を思い出して、マフラーを撫でながらちょっと笑った。
 
(ひと時だったけど)
(私と彼の、魂の置き場所)
 
 
 
 
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終わったー^^
これ作るのに3時間かかりました!!でも楽しかった。
最後の絡みを書きたいが故に中間を長くしたんだ、成神君と佐久間と恵那先輩(キャラ崩れてたらごめんなさい・・・私の妄想の恵那先輩)が喋ってくれたんだ。いっつも喋るのこの人たちだけど。気付けば今回の話だけでも夢主ちゃんたくさんフラグ立ってる。
以下おまけ設定。台本「」注意。
 
 
***
 
後半終了後美希ちゃんがタオルをランドリーから回収しに行っている間のお話。
 
佐「よしじゃあさっき撮ってもらったビデオでも見ようぜ」
源「そうだな」
 
(源田、佐久間、辺見、成神の4人でビデオをじーっと見る。)
 
成「ちょっ!先輩カメラに向かってピースしてる!!」
佐「うっげ!!気持ちわりーくらい笑顔なんだけど!!お前そんなにマネ代理が好きなのか?」
源「はっ・・・!?ななな、なんで・・・」
成「まさか源田先輩バレてないとでも思ったんスか?練習中あんなに中野さんのことちらっちら見てたら誰でもわかりますって!!」
辺「そうそう、自慢の必殺技披露する程好きならさっさと告っちまえばいいのに。なっ佐久間」
佐「デコの言う通りだぞ源田「デコって言うな!!」・・・良い嫁になりそうじゃないか」
源「よっ、嫁!?だがしかし俺はまだ中学生だから結婚は・・・」
 
それから三人の粋な計らいにより、源田は美希ちゃんと二人きりで帰ることになったのだった。チャンチャン。
 
 
 
 
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