「こーじろ、」
 
部活の休憩中。コート脇のベンチに座っていたときだった。
思いもしない人物の声が耳元で、しかも妙に甘ったるい声で囁かれ、俺の方はびくりと上がった。
 
「ねーぇ、こーじろぉ。なんでこっちみてくれないのー?」
「中野・・・わかっているだろう、今振り向いたら部員全員の前で公開キスになる。」
「いいよーつきあってるんだしー」
 
良くない、全然良くない。
今ただでさえ肩の上から腕を回され、中野の胸が背中に当たって、理性を保つのに必死なのだ。キスなんてしたら歯止めが利かなくなる。
 
「そもそも、今は部活中だ。何で来たんだ?」
「ん〜?じろーちゃんがいれてくれたよぉ」
 
佐久間?佐久間は委員会で遅れてくると言ってまだ部活に顔を出していないはず・・・。
そう思ったのと同時に佐久間が部室棟の廊下へ繋がるドアから現れるや、特に慌てる様子なく俺の元に走ってくる。嫌な予感しかしない。
 
「ごっめーん源田☆美希にジュースと間違えてシャンメリー飲ませちゃった!!」
 
謝っているはずなのに全然意が込められていない言葉に、俺を始めとする鬼道や辺見、咲山、更には恵那先輩までが一斉に溜め息を吐いた。
 
「・・・佐久間、ということはコレは酔っている状態ということか?」
 
今の鬼道はゴーグルの向こう側でどういった表情をしているのだろう。・・・いや、考えるまでもない。
佐久間は片手に空き瓶を持っている。咲山がそれを瞬時に奪い取り、成分表示をチェックするがアルコール濃度は0.1%にも満たないという。中野はアルコールに敏感な体質のようだ。
とにかく中野をどうにかしなくては。部活にならない。
 
「中野、とりあえず退いてくれないだろうか・・・」
「えー?むりだよぉ。えへへへ・・・」
 
・・・お断りされてしまった。
隣にいた恵那先輩にSOSを送るが、目を逸らされる。咲山は持っている瓶で元凶である佐久間を殴ろうとしている(それを鬼道と辺見が二人掛かりで止めにかかっている)。
 
「あー・・・中野、どうして部活中に来たんだ?」
 
一番気になっていることを聞くと、中野は言いにくそうにもじもじとした。そんなにもぞもぞと動くと背中からの感触が・・・。
中野?と回答を促すと、そっと背中から消える柔らかい感触。ほっと一息して後ろを振り返る。が、俺と共にその場にいた全員が行動を止め目をぎょっとさせた。
 
中野が目から大粒の涙をぼたぼたと零していたのだ。
 
「あーっ!!源田が美希を泣かせたー!!」
「ちっ、ちが・・・!!」
「中野さん、大丈夫!?」
「源田が無意識にキツイでも言い方したんじゃねぇ?」
「ふむ、源田ならやりかねんな。」
「鬼道さんっ・・・冷静に考察してないで泣き止ませましょうよ!!」
 
佐久間はここぞとばかりに俺のことを面白半分で罵る。
中野を宥めてくれている恵那先輩や辺見に混ざろうと彼女に近寄るが、中野が俺の前で泣くなんて付き合って初めてのことでどうすればいいのか全然わからない。
ふーっ、と息を吐き咲山が泣きじゃくる中野の肩に手を置く。
 
「どうしたよ、中野。今ならこの俺が聞いてやる。デコより全然役に立つと思うぜ」
「・・・う〜、しゅーじー・・・」
「オイ!!デコ言うな!!」
 
辺見が咲山に食ってかかるが佐久間に「空気読め」と首を掴まれ可哀相なことになっていた。
咲山には迷惑をかけるが、ここは黙って任せるしかないと思った。
 
「源田に乱暴されたのか?ん?」
「ちがうよー、こーじろぉ、やさしーよー」
 
でもね、とおずおずとする。俺の顔色を伺い次の言葉を出すか迷っているのだろう。
咲山が何も言わずに中野の頭をぽんぽんと撫でると安心したのか口を開く。
 間が背後で「キスしてやれよー!!」と叫んでいるのを無視して、さっき佐久間が出てきたドアを閉めた。
いつまでもぐすんぐすんと隣でされていては俺の気が参ってしまう。何を話してやればいいのか。身長差のせいで俯いている中野の表情がわからない。・・・仕方ない。
 
「・・・中野」
 
急に呼ばれて中野がふと顔を上げた瞬間、指で彼女の顎を掬い、ふっくらとした唇に噛み付いた。
 She is a bit high,
 
 
数十秒経って、息が出来ないと訴えてくる中野をようやく解放する。
彼女の顔は泣いた後の腫れた目と、俺が噛み付いた唇と、ついでに頬と耳が真っ赤だった。俺の初キスは、シャンメリー風味。
 
 
 
 
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ぐだっぐだ!!
でも楽しかったから良しとしよう(^ω^)☆
 
翌日このオチを予測していた佐久間と咲山に攻められる源田君を想像した!
本当にすると思ってなかった辺見と恵那先輩




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