06


この村へとやってきたお侍達はいつきちゃんの指示のもと此処へ泊ることになった。結構な大人数で来ていたために全員が室内に入れることができず野宿な人たちも居た。でも彼らはそれを想定済みか暖かそうな毛布などを持っていた。農民達もそんな彼らに木材を分け与え火を起こし暖をとるようにと配慮した。

彼らは明日、城へ向け旅立つのだそうだ。一国の主がずっと本拠地を離れるわけにはいかないそうでその時に私も、この村を出る。
つまりこの村のみんなとはお別れ。とても悲しいけれどみんなは今まで通り私の頭を撫でいつものように笑うのだ。







寝静まった夜の世界。


私は布団から抜け出し、そっと家から抜け出した。寒々とした空気は私の体を冷やすが、今、その寒さは嫌いじゃなかった。小さな足を動かして私はいつもの場所へ向かう。



大きくて、何もかもを包み込むかのような大木。そんな桜の樹の前に、此処に、この世界に私は現れた。そのせいだろうか。この桜を想うこと見ること触れることが何よりも好きで、私の心を安心させる不思議な力を持ってる。

樹の幹に腰かけ上を見える。見上げた空に浮かぶ綺麗な三日月が今日の眼帯さんを思い出させ、これからどうなるんだろうと物思いにふける。すると私の不安げな心を宥めてくれるようにゆらゆらと桜の葉が揺れた。



「離れるのは悲しいか?」

そこへ、未だ寝ていない男が私の傍へ来た。その人は政宗と呼ばれている人で私を城へ連れて行くと言った眼帯さん。投げかけられるその疑問に私は素直にコクリと頷いた。

「でもみんなが私の幸せをそう願うならそれでいいと思うんです」
「…変な考え方だな」
「よく言われます」




「別にあそこで断ってくれても構わなかったぞ」
「…。いえ、このままだと迷惑がかかってしまうんです」
「迷惑?あいつらお前のことを迷惑って思ってないだろ?」
「違うんです。いつきちゃんこの村には食糧が十分にないって言ってたから…たった少しのことだと思うけど私の分だけでもって」
「たいしたことを考えるガキだなお前は」

たった小さなことでもこの村にとっては大事なこと。これから私の口に入らないぶんを少しでも彼らの足しにしてほしい。だけどそれだけで私はこの人のお城へ同行する決意を固めたわけじゃない。


「それに貴方はとても良い人だと思うから」

たった短い時間だけで見てきた貴方が私にはとても大きかった。この人なら…って安心できる自分がいた。

いつきちゃんに告げたあの言葉に嘘偽りはないと信じている。この戦国の世を治め、いつきちゃん達農民も安心して幸せになる世界にしてくれると約束した貴方を、信じるしかない。
眼帯さんは私の言葉に返答を返すことなく少し間を置いたあと、どかりと私の隣に座り私の頭を撫でた。なんだかそれがとても恥ずかしい。けれど気持ち良かった。





「一人で出歩くなんざ危ないぜ?」
「此処にどうしても来たかったんです」

いつきちゃん達に何も言わず無断でここに来る事はよくあった。だから道に迷う心配もなかったし、まるで私自身がこの桜に導かれていくように足が進むのだ。
お城へ行くのいうのなら村からもっと遠く離れた場所に行くのだろう。これからはもう気ままに足を運ぶ事もできなくなるんだろう。
だからこれが最後になるかもしれない。


「お前はこの桜が好きなのか?」
「はい。なんだか此処に来ると安心できるんです」
「そうか…。なら、お前が来たいとき連れてきてやるよ」
「本当ですかっ?それはとても嬉しいです」


空を見上げれば視界に映る桜。隣を見れば私と同じように空を見上げてた眼帯さん。眼帯さんは私の視線に気づいたのか顔を此方へと向け小さく笑っていた。

「寒くないか?」
「今は温かいです、えへへ」

ここに来るまでは無性に寒くなったのに、今はそんなことない。傍にいる眼帯さんから温かさが伝わってくる。





「いつきは分かってたんだ」


そんな眼帯さんからぼそり、と呟かれた言葉。



「お前が光から現れたっつー噂が更に広まればいつかは狙われるときが来る。そんなとき自分達じゃお前を守れないから俺に預けるんだそうだ」

いつきちゃんも眼帯さんを認めている。だから私を預ける。と。


知らない間に二人が交わしていた言葉。私はそれを深く心に刻みつける。狙われるかもしれないという感覚は平和な時を過ごしていた私には分かるはずもない。だから自分がこの世界で異端児であること、いつきちゃんが私のことを想っていてくれることを、それだけは忘れない。

「互いに互いを想う、ってのはいいことだな」

見上げた眼帯さんの表情はとても柔らかい笑みを浮かべていた。


さっきとは違った儚くて消えてしまいそうな哀しげな寂しげな小さな笑みに思わず彼の袖を握っていた。







強く握るのと同時に意識が朦朧としてくる。
瞼が閉じそうになるのを必死にこらえるが筋肉がいうことをきかない。温かな空間は眠りを助長させる。こんなところで眠ったらいつきちゃんに怒られると思いながらその睡魔にかなわない。

「眠たいなら寝てろ、俺がなんとかしてやるから」

隣に居た眼帯さんが優しく言葉を奏でれば、それがまるで子守唄のように聴こえて私の意識は簡単に夢の中へと落ちていった。


体中を大きな毛布に覆われるようにそれはとても温かかった。

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