02


意味の解らぬ始まり方をしてから早数日。客人のように持て成され、何もする必要はないと誰もが私の頭を優しく撫でた。せめてお世話になっているくらいは手伝いをしたいのに、残念ながら…私のこの姿は手伝いには向いていないらしい。それもそのはず。たしかに歩幅の短い足は大人の歩幅には追い付かない。高い棚にあるモノは私の背では届かない。何をしたって足手まといだった。
こんな感情があるのに手伝いが出来ない自分がなんとももどかしい。動くにも前の大きいはずだった自分の感覚が抜けず苦戦を強いられている。心と体が成り立たないむず痒さが気持ち悪いのだ。
あの某名探偵ってこんな気持ちになってたりしてたのかな?とか疑問に思ったことは別の話。




あーあ。


こんな生活をしてもいいのだろうか。



いつきちゃんだってまだ子供なのに、大人がびっくりするくらい働いている。そんないつきちゃんは村の人たちに「働かざる者食うべからず」って言うのに私はなにもしていない。お世話になりっぱなしだった。



そんなことを考えつつも、日々は勝手に過ぎてゆく。いつきちゃんは何でも聞きたがる私の為にいろいろと教えてくれた。



そこでわかった事はいくつか。

ここは日ノ本という私が居た日本もどきの国。本州最北端にある小さな農村。
まあ問題なのが此処がもしかしたら日本でしかも“過去”であるという可能性があることだ。
私は過去へタイムスリップ?トリップ?してしまったみたい。いつきちゃんの話からすれば今は戦国乱世………つまり、戦国時代。

日本史で有名な織田信長や豊臣秀吉、武田信玄とかそんな類の武将がいる。うおっ怖い。出来れば会いたくないよね。彼らと会うだなんて死にに逝くようなものだし。
この村が本土の最北端であることを心から感謝した。え、何でかって?そりゃあ…会う機会もないだろうからね。刀振り回す時代なんて普通に生きているだけで命の危険が迫ってそうだよ。怖いよ。ホント怖い。発見されたのがこの村で、しかもいつきちゃんで良かったとホントそう思う。






だけれど、この村にも問題があるようで…

いつきちゃんは初めて私の目の前で暗い影を落とした。いつもは太陽のような笑顔をふりまくいつきちゃんがこんなに深く考え込んだ姿を見たのだ。




「これからこの村は危険な目にあうかもしれねぇだ。だどもなまえは隠れてればいいだぞ」

私を危ない目にあわすわけにはいかない。そんなことが彼女の言葉には含まれていた。





なにを始めるのか、それを聞くだけならいいかな。知らないことが少し怖くて恐る恐る口を開きいつきちゃんに聞いた。

これからこの村に何が起こるのか。と。



「一揆だべ!…もうそろそろお侍さんも攻めてくるころだ」
「い、いっき…!?」

百姓一揆とかっていう、あの一揆?!
みんなで協力して何かを成し遂げるためだったりとか、お偉いさんに何かを伝えるための一つの手段だよね?しかもその一揆の主犯(リーダー)がいつきちゃん。


「お侍さん達は何もわかっちゃくれてねえ!おまんま食えるのはおら達農民のお陰だってことを。それなのにおらっちを蔑ろにしてるだ!」

昨年は天候に恵まれず米をたくさん作ることが出来なかったそう。
自分たちの食べる分も考え、お侍にはその事情を話し奉納を少なくしてもらったのだが、それを快く思わない彼らが今年の奉納の量を昨年の倍の量を要求してきたらしい。それはあまりにも理不尽な要求であり、ただでさえ自分たちの食糧を削り差し出したというのにこれでは自分達の食べるお米がなくなってしまう。

身勝手な彼らの発言を鵜呑みにしていたらこの村は確実に終わってしまう。だからこそ、すべてを奪われる前に頑なに無理だと発言したらこのように対立してしまったとのこと。そして彼らが最後にたどり着いたのは一揆だ。いつきちゃんは何でも奪おうとする侍の横暴加減に眉を歪ませ歯を食いしばっていた。




ああ、そうか。
農民達を守る為にいつきちゃんは一揆の代表となり立ち上がったのだ。




「なまえには見てもらいたくねぇだ」

何が、とは聞かない。
きっと私が見たことのない世界なんだろう。




血が流れるのだろうか。


誰かが傷ついてしまうのだろうか。

私は、隠れていればいいのだろうか。



いつきちゃんが言うように。

村人達の優しい好意に甘えたまま。








「いつきちゃん!お侍が来たで!」
「!!…わかっただ。さ、なまえ隠れるだぞ」

予想以上の速さだったようでいつきちゃんは顔をしかめた。壁に立てかけていた大きなハンマーを手に取りきりりとした目で此方を見た。


私は村人に抱えあげられ、小さな扉の中へと入れられた。「ここでじっとしているんだべ」「不安がることはない」と頭を優しく撫でられた。奥へ押し込まれ次第に閉ざされる扉。消えゆく光。真っ暗になった空間に恐怖を覚えた。

いつきちゃんが扉の向こうで「少しの辛抱だべ」と告げる。きっとその時のいつきちゃんの顔は私を安心させるような笑顔で笑っているのだろう。






遠くへ消えてゆく足音。


私はただ一人、逃げている。





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