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「おや、景綱殿ではないですか」

甘味処へ向かう途中の街中で景綱と呼ばれた小十郎さんはそちらを振り向いた。とても優しそうなお爺さんの顔を確認すると小十郎さんは久しぶりだなと声をかけ笑う。どうやらこのお爺さんは小十郎さんの知り合いのようだ。
二言三言会話を交わし小十郎さんは申し訳なさそうに政宗さんへ声をかけた。

「藤次郎殿、まことに申し訳ないのですが暫くお待ち頂けますか」

「かまわねぇよ、なあチビ助」
「はいもちろんっ」

小十郎さんが話している間、私は政宗さんの目線に近くなるよう高台に乗せられた。そして政宗さんとここが未来と違うだのとか言いながら雑談を交わす。たまにチビなのに博識だなと言われドキリとしながら笑ってみたりという繰り返しをしていた。もちろん周りに知られないために声のトーンは下げている。




そんな中私の視界に入ったのはお店にある商品。
そんな私の視線に気づいた政宗さんは「何かあったのか」と聞いてきた。
……なんというか、鋭いなぁ。ほんの少し見ていただけというのに。

「お面、可愛いですね」

私が見つめていたのは狐のお面。
白の色に表情を描くように黒と赤いペイントを施した一般的なもの。

「あれ欲しいのか?」
「あ、いえ。欲しいとかじゃなくて純粋に可愛いかなぁと」

現代じゃプラスチック製のお面が普通で木のお面だなんてみたことない。なんだか重そうだなぁと思いながら味わいのある造りに目を奪われてしまったのだ。
政宗さんはそんな私を見てにっと口角を上げた。

「買ってやる。ちょっと待ってろ」
「えっ!?あの、まさ!…っ藤次郎さん!?」

どこか嬉しそうな声とともに走り出す。私の戸惑いの声を聞かずして政宗さんは人混みへと消えていった。

「え…ええ、…」

ひ、ひとりじゃないか!私を置いていかないでくださいコノヤロー。と内心で呟きながらじっと立ち尽くす。
政宗さんが消えていった目の前に移る人混み溢れる街の賑わいは私の小さな体じゃとても敵わない。あの中へ飛び込んだら潰されてしまいそう。あ、そっか。政宗さんは人混みを避ける為に私を置いてったのかなと納得する。

だけど暇だ。ひとりじゃ暇すぎる。そんな退屈な私の目に飛び込んできた風鈴の音。そよそよ流れる風にゆらりゆれる夏の風物詩。
まだ時期的に早いかな、と思いながら見つめる。それはここよりいっこ挟んだ向こうのお店にみえた。
ちょっと近くでみてみたいかも。…そんなただの興味本意があらぬ結果を引き起こす。


「あ、わ…わっ」

それは一瞬のことだった。
高台から降り一方前へと踏み出した私は人の波に巻き込まれた。政宗さんと小十郎さんはそんな私に気づいてない。声をあげても周りの声に掻き消されてしまうだろう。ましてや遠くにいる彼らには届くわけもない。困った。非常に困った。


やっとのこと人の波から抜け出し一息ついた。だいぶ流された気がして辺りを見回せば周りはよくわからないものばかり。来た道を戻るにしても此処は初めて来た場所で道なんてわかるはずがない。ぜんぶがぜんぶ同じに見えて身動きがとれない。

だけどじっとしていても始まらないわけで私はそのまま見知らぬ道を歩く。
みるものすべてが珍しくて足どりは自然と軽やか。店に並ぶ綺麗な商品を見ては次の店へと赴く。そんな途中で「君は迷子になったの?」とか聞いてきた優しいお婆さんがいたけれど、それは違う。断じて違う。こんな歳で迷子だなんて恥ずかしすぎる。
認めたくない事柄に有り得ない!と心でしきりに叫びながらただひたすら歩く。歩けば歩くほどなんだか城下の賑わいが消えていくのはきのせい?なんて考えていれば城下の街中をぬけ開けた場所に来てしまった。さらさらと流れる水の音が耳に届き足を運ぶ。


あ…れ…?


「…?」


私は川辺についてしまったようだ。うしろを振り返れども誰もいない。……ここ、どこよ。

そこでふと我に返った。
あれ私なに出歩いちゃってんの?と。
政宗さんがいない。小十郎さんもいない。私一人だよバカヤロー。


認めたくない事柄が脳裏に浮かぶ。
ああ、これはもう確実なんじゃないかと。
声に出し認めなくてはならない。


「わたし、…迷子…?」

そんな私の声に、誰の返答もこなかった。





◎戦国時代に風鈴はないですよねきっと。というかむしろ有り得ない事柄ばかり…。まあ許してください←

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