21


(政宗視点)


この世界の人間でないこと。


まるで夢物語でも言われたような話。普通なら失笑し“有り得ない”と話を受け入れるどころか右耳から左耳へと聞き流すようなものだ。だが、それをウソだと思えなかった。

そして小十郎へと向き直ると俺の仕事の邪魔をしたことに関して申し訳ありませんと謝っていた。そんななまえの姿に小十郎は気にしていないと告げ彼女の頭を撫でる。執務よりも大切なことはある、そう言った小十郎はなまえに笑う。いつからだろうか。あいつがなまえに向かって優しげな笑みを向けるようになったのは。
あいつは歪んだ顔を浮かべ「ありがとうございました」と俺達に丁寧に礼を言った。その時のなまえは無理して笑っていたように思う。無理もない。あの話が真実ならこいつはこの世界に一人だ。なのにあいつは泣かない弱音も吐かない。こんな小さいのにずいぶんとしっかりした奴だ。

そう。なまえの話が本当ならば別の世界へ飛ばされたという事実は変わらない。なのに泣かない寂しいとも言わないのだ。大人も子供も関係なく人間なら誰しもがこんな境遇に慌て自分を見失うかもしれないはずなのに。






その夜、無性になまえの様子が気になり足は自然とあいつの部屋へ運んでいた。小さな灯を手に歩けば目的だった子供が部屋から出て廊下で空を見上げていた。

そのあとこの場を逃げるように“厠”だと言って走っていったなまえだったが、それが嘘だと気づいていた。月の光に反射してうっすらと見えたあいつの頬。輝いた一筋の線。嗚呼、こいつは泣いていた。誰にも見られないようにひとりで。それを証明するかのように部屋には湿ったふとん。甘えてもいい年頃なのに本当に子供らしくない子供だ、と苦笑する。戻ってきたなまえは想像以上に驚いた顔でこちらを見ていた。子供じゃないと言ったなまえはいつにないほど動揺しながらも、俺の胸で泣き互いに分かち合いたいと望んだ。そのあと泣き疲れたのか俺の腕の中で寝てしまったこいつの小さな体を抱えふとんへと潜った。

お前との距離が近くなったようなそんな心情に嬉しさが込み上げた。たとえ次元の違う存在でもこうして手を伸ばし触れられる。ふわりとする柔らかな髪を撫でられる。お前はしっかりとこの世界に存在しているんだ。………一応言っておくがそれ以外にいかがわしいことはしてないぞ。



それにしても朝、こいつが起きたときの反応ときたら、いつきのいた村のあの夜の時と全く変わらない動きをしやがった。恥ずかしがって奇声を発してみたり顔を赤らめたり、まったく幼児にしては照れ屋な反応だ。逃げてゆく背中を見ていればなんともいえない笑いが込み上げた。

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