18


「えっと、聞いていただけますか?」

私の存在を。
この世界では異端でしかない私の話を。





もともと言い訳は苦手だし逃げていても始まらない。どうせいつか墓穴をほる自信があるしね。私はこの人達が信じてくれるのを信じるしかない。だけどこんな話を信じる方がおかしいと断言できる。私だって誰かに今話すことを言われたら新手のウソか何かの冗談だと思うし。う、ちょっと待って……嘘を言ったからって口実で打ち首にされたらどうしようか…っ!?
あー!考えてたらこの時代って有り得そうで不安になってきた!どうなの?私死ぬの?

「なにしかめっ面してんだ。いいから話せ」
「…う、」
「して大事な話とは何なのですか?」
「…あの、ですね」

この話をする前に執務室へ小十郎さんも呼んでもらった。私としても彼には知ってほしかったことでもあるから政宗さんの計らいはとても助かった。私の前に二人が並び彼らを見上げれば思わず縮こまってしまうのは私と貴方達の身長差もあるし圧迫感がすごいからそれは仕方ないよね。……というか結局、政宗さんのお仕事の邪魔しちゃったことには変わりない…よね。ごめんなさい小十郎さん。

「…恐らく信じてもらえないと思います、ですが私にはこれ以外に伝える真実がありません」



一度口を閉じ、深呼吸をする。深く吸い込む酸素がやけに美味しくないと思いながらも、口を再び開く。





「私は……未来から来ました」


たった一言。
完結に、率直に、告げた。



「未来とは言ってもこの世界の本当の未来ではないと思います。パラレルワールド、つまりこの世界に似た平行世界から来たんだと推測しています」


私の直感と
いつきちゃんに聞いたこと
書物に載っていたこと

昔の人にしては有り得ない身長。
昔の日本では有り得ないだろう生地を羽織る彼ら。
この時代を総称する婆沙羅歴というものは私の世界にはない。

私の世界とこの世界の違い。

噛み合わない他そのたもろもろの過去はすべてを物語る。私はなぜ此処に来たのかは謎だけれど今私が此処にいる以上、そう言うしかない。
彼らは黙って私の言葉に耳を傾けていたままだった。一言も返答の無い、この静かな空間に気まずさを感じながら私はこれ以上他の言葉を繋げられない。
そんな沈黙の中、ひゅう、と息を吸う音が聞こえそれは発せられる。




「parallelworld、…ねぇ。確かに聞かねー異国語ではあるな」

政宗さんの声だった。

「その未来ってのはどんな世界だ?」
「…えっと、…私の住んでいた日本は戦もなく平和です。様々な物が溢れる豊かな国になりました」
「戦がないのか?」
「ない、と言えば違うかもしれません。世界中の何処かで戦争は続いています。昔、日本は大きな戦争に負けて兵器を放棄しその代わり平和を手に入れたんです」
「…お前の住む日本は幸せなのか」
「だけど失ったものは多いです。多くの自然を犠牲に発展を手にいれたり、とか…」
「それでも戦がないってのは良い国だな」


私の夢物語のような話を聞き入れる政宗さん。それを否定することなく、疑うことなく、真っ直ぐすべてを聞いてくれる。
着物を握りしめ震えているであろう私の声が、彼へ問う。

「信じてくれるんですか…?」

怖い。その返答を聞く事も、彼らから見放されてしまうかもしれない事も。だけど政宗さんはそんな私に手を伸ばし、柔らかい笑みを浮かべ私の頭をいつものように一度撫でた。

「お前が俺達に嘘を言って何の特があるんだよ。小十郎、お前はどう読む」
「まことに信じ難いですが…なまえ様がウソをつく理由が見当たりません。政宗様がそう直感を抱くのなら私は何も言いますまい」

言わずとも竜の右目には城主の考えが少なからず分かっているようで彼らは顔を見合わせた。
そして小十郎さんは私に頬を緩め微笑みかける。その姿に少し驚きながらも、温かな表情に心が落ち着いた。

「一度言ったらこの小十郎の意見など聞かない貴方様の性格を重々に分かっているつもりですが」
「Ha!! 言うじゃねぇか」

そして私に目を向け、お前の真実を語ろうとした目はウソだと思えない、と言った。

「安心しろ、未来人だからってお前を追い出したりしねぇからな」

不安だった。何もかも。私自身を否定されてしまうことを覚悟していた。だけど、貴方は貴方達は、否定せず聞いてくれた。信じてくれた。

「信じてくれる、ってこんなにも嬉しいことだとはじめて知りました」

熱い。目尻が熱い。熱くなった目からあったかい何かが溢れ出してしまいそうな不思議な感覚。私は泣いてる?いや違う。涙は出てないんだ。この境遇に悲しさに嬉しさのあまりに胸が焼ける様に熱い。ぐちゃぐちゃの感情が変な風に入り交じって頭がパンクしそうだ。

「ありがとう、ございますっ」

そんな私の目に手を伸ばす政宗さんの姿。反射的にびくり、と肩をふるわせれば彼は私を安心させるように柔らかに笑う。伸びた手は私の小さな体を包み込むように抱き締めてくれた。

あたたかな人の体温。
政宗さんに「頑張ったな」、と諭されれば私の心はきゅうぅとよりいっそう熱くなる。抱きしめてくれる政宗さんの体に私自身の腕を回し顔をうずめ、彼らに悟られぬよう小さく笑った。






「それにしても、相変わらずチビのクセしてよく働くアタマだな」
「未来とは教養がされているのですな」

(あ、幼児化したこと言うの忘れた)

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