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政宗さんと私。
二人で執務室に籠り、政宗さんは城主として重要な書類に目を通す仕事をこなす。彼の周りには多くの書類が積まれていてあれほど嫌だと言っていた(しかも脱走していた)彼の気持ちがよく分かった。今も嫌々ながらそれらと向かい合ってはいたが…仕事モードとはすごいものだ。一瞬にして彼の纏う空気が変わったような感じがして、真剣な眼差しでそれらを見ていた。


そして私といえば政宗さんから借りたこの時代に関する書籍に目を向けた。……のはよかったんだけどこの時代の文字って達筆すぎて読めないんだよね。なんとなく予想はついていたけどこれほどにまでかよ。だから今は政宗さんから貴重な紙を貰って字の練習をしています。書籍に載る文字を真似て書き、手の動きになんとなくのニュアンスを感じとるというのか…それで少しは読むことができた。うん、我ながら頑張ったと思う。


そんな状況に満足して頷いていれば頭上に視線を感じ見上げれば、政宗さんが私の持っていた紙を見てクツクツ笑った。

「ヘタクソな字だな」
「うぐっそんなストレートに言われるとショックです…」

改めて自分の字を見る。嗚呼、もう何も言うな。考えるな。自分が悲しくなる。
これでも頭脳は(一応)大人なんですけれどね。やっぱり幼児なみにヘタクソってことですよね。ああ、自分がいたたまれない。

「悔しいです!私、絵なら得意なんですか…ら…、ね…?」

再び筆をとり、私は政宗さんに向かって声を張り上げた。…つもりだった。
だけど政宗さんが此方を真剣な表情で見てくるもんだから張り上げていた声も語尾を引き延ばし情けないものへと変わった。何か考え込むように此方をじっと見る政宗さんに私はどうしたんですかと声を発すれば彼は口を開いた。

「straight.. shock...」
「…政宗様?」
「そういや、お前、異国語が話せるんだったよな」

政宗さんは英語のことを異国語と言う。
彼はその異国語を使いこなし私ですら吃驚するくらいの発音をしてみせる。小十郎さんなどの人たちは彼の言葉が分かるときもあるが、すべてを理解できているわけじゃない。私が見ている限り政宗さんの異国語に頭を傾げたりする場面もあったので、これは政宗さんの専売特許的なものだろう。

そんなものを幼い姿の私が理解している。これは私自身が奇妙な存在であると言っているのと同じ。発音が良いのかどうかは別だけれど、そんな異国語を私はすらりと言ってしまっているのだ。






手に持ちっぱなしだった筆を置くとパチリと乾いた音が鳴った。

「あの、政宗様」

そして、一言、彼の名を呼ぶ。
貴方が私の声に耳を傾け瞳を見る。そんな彼の、真っ直ぐな視線に開きかけた口を一度閉じたが、再び、彼に言う。

「言っておきたいことがあります、」

いつかは話さなきゃいけないと思っていた。私のことを怪しいと思いながら何も聞かずに、此処に置いてくれた。きっとあなたは私から告げられるまで、何も聞かないでいてくれたんだと思う。それが彼の優しさか。それとも尻尾を掴む為の策略か。

どちらにせよそれにずっと甘えたままではいけないこと、わかってた。



「えっと、聞いていただけますか?」





私の存在を。


この世界では異端でしかない私の話を。




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