01







気づいたらここにいた


そんな説明でも許してくれるだろうか










「あんれー…驚いたべ」


ひとつの声に思考回路の停止したままだった私の脳内がフルに動き出した。





「おめぇさんは桜の神サマだか?」


そこには田舎染みた方言を話す女の子が目の前にいた。白と銀色が混じった髪を左右に結った少女。私が今まで見かけたことがないほどそれは雪のように綺麗だった。
そしてその女の子の後ろにもまた人が集まり、私の前方は囲われているようだ。


ただそれだけならまだ良かったのかも、しれない。

まず、ひとり。この目の前の女の子は普通の人なら着ないような結構露出度の高い服を着ている。ていうか…今の時代こんな奇抜な格好をしている人はいないだろう。
それに私を取り囲む人達はみんな和服を着ていた。なんでみんな着物姿なのかな。



ここは夢の中?

時代劇とかの映画村?

それとも何かの撮影をしてるのかな?



……なんて現実逃避も私の心は冷めてしまっていて、目の前に映るリアルすぎる世界に絶望感を抱いてた。





違う。

肺に入る空気も私に触れる草木も青々と晴れ渡る空も何もかも、そう何もかも、だ。すべてが私に告げていた。私が違う存在であることを世界の冷たい何かが主張する。


此処は、私の知っている世界じゃない、ということを。






「びゃぁーって光ったと思ったらこんなちいさな子どもが出てくるでねぇかっ!」

両手を広げ、体いっぱいに表現する目の前の少女。

少女曰く、私は桜から光を放ち現れたとのことで。ふと背を見ればそこにはとても大きな大木がそびえ立つ。今までこんなに大きなものは見たことない。堂々と立つその立派な樹は淡いピンクの花弁を咲かせ、そよそよと流れる風に身をゆだね花びらを振らせていた。
そして私の下にはその花びらだろう桜の絨毯ができていたのだ。それも私を守るようにそれは私の下にだけあった。


私を驚かすために作り上げたものであってほしいと願ってもみたが、少女の他に目撃者は多数。証人はここにいる人たち全員だと誰もが顔を見合わせ頷いた。



だがしかしこの子、私のことを子どもといった?



「子ども?私には貴方の方が子どもに見えるけど…」
「何言ってんだべ。おらよりちっせぇ子どもでねーか!」

不思議な違和感。

目の前にいる貴方より私が小さい?…確かに童顔とか言われて来たけど、こんな子どもに間違われるほど幼くない。


反論をするために立ち上がった。

そう、私は立ち上がったのだ。




なのにどうして?

女の子との視線が会わない。
未だに見上げてる。




「え…っ?……うそ…」


なんて小さな手。

ちいさな足。

立っているのに地面が近い。



私は誰。私は何。

視線を下げ地面にうっすら残る水溜まりに映る私は、アルバムやビデオでみたことのあるわたし。手を動かせば、水溜まりに映るわたしが同じように動く。
私がいる。おかしい。どうして。なにがおきてるの。



「あは…、なにこれ?」

笑いたい。笑わせてほしい。私は何をしてるのだろう。この姿はまるで昔の人。ていうか時代劇じゃないか。私ってばいつからコスプレをしてたっけ?

それに私の体を包む布切れ。
淡い桜色の生地に白と赤の小さな花柄が彩られた綺麗なものだ。赤い帯がお腹あたりを締め付ける感覚が、今までつけたことのない不思議なもの。いつから?あれ、いつから?覚えてないよ。この歳で既に若年性アルツハイマーですか?嫌ですよそんなの。

「おめえ大丈夫だか?」
「…私、子供に見える?」
「だべ!どこかの偉ぇお姫様か?こんなにしっかりした子は見たことねえよ!」

にんまりとした笑顔で告げられる肯定は私の心をさらに落胆させた。






ああ、どうしよう。



私どうしたらいい?





「いってぇ何処からきただ?」
「わ、わからない。…でも、ずっと遠くから来たんだと思う」

彼女の問いかけに苦笑を溢す。
なんといえばいいのか。どうやって説明すればいいのか分からない。


ああ、どうしたものか。

彼女の純粋な疑問にすら私は答えが出せず黙りこむことしか出来なかった。

「…」
「おらはいつきだ」

そんな私にいつきと名乗る少女は手を差し伸べた。
その笑顔は私の不安な心をどこかへ追いやってしまうほど爽やかで、暗い気持ちもかき消してしまう。まるで太陽みたい。

「私は…なまえ、です」
「なまえだな?よし、なまえ!おら達が面倒見てやるだ!」


「いいよなみんな!」

いつきちゃんが背後に居る者達の了承を得る。
すると、彼らは歓迎の意を込め声を出す。「いつきちゃんが言うなら」「こんな小さな子を放っておくわけにはいかねぇよ」「何も心配することなか!」それらの声はとても温かくて思わず眼尻が熱くなり涙が零れそうになる。それを何とかこらえ私は笑った。

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