16


夢を見たと思う。…だけど、もう何も覚えてない。
体中から汗が吹き出しているのか服は体にひっつき髪の毛が鬱陶しいくらい顔に触れる。ベタベタして気持ち悪い。ああ、お風呂入りたい…なんて思っていればこの部屋をノックする小さな音。私が声を出せば襖が開きお辞儀をする春ちゃんの姿が見えた。


「なまえ様お早うございます」

まるで天使の笑顔を見ているよう。変な夢も忘れ私は笑顔を彼女へと返すのだ。「おはよう!春ちゃん!」と。

「なまえ様だいぶ汗をおかきになっているようです。湯浴みいたしますか?」
「あ…ううん、体拭くだけで平気」

本当はお風呂に入りたいのだけれど、こんな朝っぱらから頼み込むだなんてそんな迷惑はかけられない。それに拭くだけでも汗はふき取れるから平気なはずだ。…汗臭くなければいいけれど。

「春ちゃん、今日も申し訳ないけど、召し物着させて下さいっ」
「はいもちろんでございます。ふふっ今日もなまえ様がお元気そうでなによりです」
「う、うん元気!元気!春ちゃんは?」
「私も元気ですよ。なまえ様に負けてはいられませんっ!」

元気の張り合いを繰り広げる二人。
たいした内容の無い会話を繰り返しながら春はなまえの召し物を変える。
蒼色で統一された着物でとても豪華なもの。他にも何着かあるようだけどまだ全部を見せてもらってはいない(後での楽しみだとか…?)すべて政宗さんが私の為にと調達してくれたそうだ。私が小さすぎて他の人たちのが着れないしね。2着ほど借りれれば私はそれで十分いいのになぁ(着回し結構!)

「蒼ってきれい」
「そうですね。伊達軍は蒼が主ですからなまえ様のお召し物も蒼が主体です」
「こんなきれいなものを着てもいいんでしょうか…」
「そんな!とてもよくお似合いですよ。さすがは政宗様ですっ」

にこにこと春ちゃんは笑いながら「なまえ様は政宗様に愛されていますね」と言われ、その突然の一言に自然と頬が熱くなった。そんな私の姿を見ては春ちゃんは可愛いなんて言い出すものだから余計恥ずかしくて脳みそが沸騰しそう…ううん、爆発しちゃうかもしれない!








「Good mornning!!」
「ひゃあああっ!」

突如スパーンと勢いよく開いた襖。それにびっくりした春ちゃんが悲鳴を上げ私に抱きついた。その反応が可愛いです!グッジョブ春ちゃん!

「oh...sorry. 春悪ィ驚かしちまったな」
「ま、政宗様!お早う御座います!私の方こそ声を上げてしまい申し訳ありません!」

慌て謝る春ちゃんに政宗さんは別にいいと言った。





「政宗様お早うございます!あの、着物って私の為に用意してくれたんですね」
「このくらい気にするな。それは気に入ったか?」
「はいとっても!ありがとうございます!」
「Don't mention it. そりゃ良かった」

クツクツ笑う政宗さんは私の頭を撫でた。そんな政宗さんは私の部屋へいったい何しにきたのだろうと疑問を浮かべていれば、廊下でどたどたとした音が響きそれは私の部屋の前で止まった。政宗さんが開きっぱなしでいたため、そこに見えたのは小十郎さんの姿。それを見た政宗さんはゲッとした表情を出したあと視線を横へと流した。そんな政宗さんを私がみつつも、小十郎さんと朝の挨拶を交わした。彼はそれに一礼をすると、政宗さんへと向きなおり少し強めの口調で彼へと告げる。

「政宗様!執務を行ってくだされ!」

小十郎さんと二人で畑に赴いたときに、政宗さんがよく執務の仕事を逃げ出すので困っているとか、そんな愚痴じみた会話を思い出す。それにこの青葉城に来る前も“また城を抜け出す”的な発言もしていたし、…ああ、なんだか政宗さんが逃げ出す度に小十郎さんが奔走する姿を思い浮かべれば彼が可哀想に思えてくる。


「政宗様、小十郎さんの為にもしっかり執務をこなして下さい」

本当ならば小十郎さんの苦労を少しでも減らせればいいのだけれど。私が彼に言えるのはこれだけ。政宗さんは面倒そうに顔を歪めながら自身の後頭部に触れ「Ah-...」と声を漏らす。


「…kittyに言われちゃしょーがねえか。だが俺に意見を言うならお前は俺に従え」
「え」
「嫌そうな顔すんなって。ただ俺と一緒に執務室に来いってだけだ」

思わず嫌悪感を顔にだしてしまっていたようです。そりゃ、ねえ?従えって言われて「はい!」だなんて喜ぶ人なんていませんよ。私はMじゃありませんからねぇ。たぶん。


「私居るだけでいいんですか?」
「ああ。それだけで構わねーぜ」

そう言うと政宗さんは小十郎さんの方を向いた。彼の許可を求める視線に、小十郎さんは軽く溜息を吐くと肯定の意を示した。

「仕方ありません、執務をして下さるのならば…なまえ様お願いできますか?」
「あ、はい。私は構いません。政宗様のお仕事のご迷惑にならないように気をつけます」

私がその場にいるだけで政宗さんが執務を頑張ってくれるのなら。逃げないでいてくれるのなら。……私が邪魔で仕事が出来なかっただなんていう結末にしないよう、それだけは小十郎さんの為にも心がけようと思う。







(ついでに、何か書物でも閲覧させてもらおうかな…っと)

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