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緊張します。とても緊張します。
この襖の先にはたくさんの人達がいるんですね。

「なまえ様、落ち着いてくださいませ。みな良い人ばかりですから」
「う、うん。がんばるよ春ちゃんん…!」

隣に寄り添う春ちゃん(むしろ私が春ちゃんの袖を放さないだけだけどね!)に感謝しつつ、私は深呼吸を繰り返す。他にも緊張をほぐす為に手に“人、人、人”と書いてぱくりと食べる。ああ、迷信でも何でもいい。私を助けてほしい。


襖の向こうで聴こえるどんちゃん騒ぎ。ついにこのときがきた。私を迎え入れるため、政宗さんたちが開いてくれた宴会。この激しく賑わう雰囲気ならばスルー的な感じで私を受け流してくれないかな。


「おい!てめぇら今日のmein eventを忘れてねーか!?」

「筆頭ついにお披露目ですかィ!?」
「待ってましたぜ筆頭ー!」

政宗さんの一声に、どんちゃん騒ぎをしていた彼らが途端に注目し始める。ああぁぁあー…そんな掛け声いらなかった。これじゃ目立つこと間違いなしです。政宗さんは本当に私の苦手な方向へ持っていくのがお得意ですね。


「hey! kitty!!」

それと私はキティーじゃないですけどね!




「お披露目だ!」

襖が開かれる。
大勢の人が、私を見てる。


「……」


む、むごんが…いたい。

こころがいたい。



さっきまでの威勢のいい声はどうした!この酔っ払いども!!(不適切な発言申し訳ありません!)

こちらを見る彼らが怖い。だってヤクザ顔ですもの。小十郎さんの顔には負けるけど(失礼です)、慣れない私にとって彼らの顔を見るのは勇気が要ります。隣に癒しの春ちゃんがいてくれて本当によかった。目の保養です。


「なまえ。野郎どもに挨拶だ」
「…だ…伊達なまえと、申します!よ、よよ、よよ…」

政宗さんの義理の妹設定と言うことで私の苗字は伊達となったらしい。これから私は伊達家の子として生きていくのだそうです。そこまで言えたのはいいものの…緊張のあまり、「よろしく」が最後までいえませぬ!

「よよ?」
「よ、がどうしたんだ?」
「妹様大丈夫かい?」
「なまえちゃんガンバレー!」

「おい成実!てめーはコイツに慣れなれしいんだよ!」
「わー梵が怒ってるー!」

部下達の中に混じる政宗さんによく似た成実さんの声。それに反応する政宗さん。彼らのちょっとした言い合いに緊張の糸が解れる。

このヤクザ集団に負けるものか、と私はうつむいた顔をそっと上げた。
その目に映るギラリとした彼らの顔。


「っよろしくお願いいたします!」

うわぁだめだああああ!
怖い。目をあわすだけで殺され…!






「おう!よろしく妹様!」
「仲良くしてこーな」
「妹様、景気づけに酒飲むか?」
「バカ!まだ小せぇのに飲ませちゃだめだろ」
「俺の親父はガキん頃にもう飲ませてたけどな!」
「そりゃお前の話だろーがっ」
「ははははは!」

温かな声。それは見た目が怖いとか人相が悪いとかそんなことなんてどうでもよかった。


ぽん、と頭に乗った何か。上を見上げれば政宗さんが私の瞳を真っ直ぐ見つめ告げた。


「見た目は悪ィが、こいつらみんな良い奴だから」

この人は私の考えていること思っていること、全てお見通しなのかと思ってしまう。



私は彼らのその姿だけで考えてしまっていたんだ。失礼なことを、私は知らない間に。




「Let's party!!!」

「Yeah--!!!」

政宗さんの掛け声のもと彼らは再び盛り上がる。





「…私、みんなのこと好きかもしれないです」
「かもしれない、じゃねーだろ?」


政宗さん。私、ここで生きていけるような気がします。



「姫様ぁー楽しんでるかー!」
「てめーのツラが怖ェから妹様の顔が引きつっちまったぞ!」
「ばかやろー!てめーのツラも言えたもんじゃねーだろ!」
「そりゃー言えてらぁ!」
「んだとこのヤロー!」
「お?なんだ俺と酒の飲み比べでもしようってのか!よし乗ったぜ!」

でもやっぱり彼らの形相が怖いのはなかなか変えられないかもしれません。それは私の感情だから仕方の無いこと。だけど歩み寄ることだけは忘れません。みんなの良いところたくさん見ていきたいと思います。もちろん小十郎さんや政宗さんもいいところも。



伊達軍のみんなに「妹様」とか「姫様」と呼ばれることに抵抗感はあるけど今に始まったことじゃない。“様”でもなんでも呼べばいいさ!ヤクザの上にたってやんよ!

そう、心の中で強く決意したことはまた別のお話です。

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