「銀ちゃん銀ちゃん」

袖をくいくいと引っ張る小さな手。
ジャンプを見る視線をそらし下方へと向ける。
居候している新八や神楽、ましてや定春でもなくて。

でもそこには見馴れた子がいるわけでして


「お願いがあるの。銀ちゃん」


この子はとある事情で万事屋で居候している女の子だ。





「……」

しかしそんな甘ったるい声になんて騙されないよ俺は。

どちらかというとボインでグラマラスなオネーサマの方が好きだからね俺。……え?聞いてない?
おま、そこは空気読んで聞いておくもんだぜ。口に出しちゃいけない。
わかるか?空気読めねぇとKYの称号貰っちゃうよ?俺は別に構わないけどな。

「そんな可愛い声でねだったってダメだ。銀さんは騙されないよ」

その言葉に反応し頬を膨らませた女の子、なまえ。

ほんっっとこの子可愛いんですけど。
なにこの小さい子。




え?なにロリコン?


だ、だだだ、だ誰のことを言ってるんだオイィイイ!?

君、名誉棄損で訴えるよ。
イメージがね。ホラ、俺の格好良いイメージがガタ落ちだよ。どうするよ今何かのゲージが滑り台で滑り落ちるかの如く下降しちゃってるねコレ。どうするコレ。どう責任とってくれんの?
え、もとから?ハハ、またまた冗談を…俺人気投票の順位ダントツ1位だし。なにいってんの?……俺1位だし。うん。主人公補正とかじゃねーし。うん。


「えー。お願い、依頼受けて」
「だからダメだって。なまえちゃんはこのまま愛しの銀ちゃんと暮らせばいいの」

俺にはこの子の考えていることなんて手にとるようにわかるわけでして、前もって釘を打つわけなんだが…

「うわあ」
「え?なにそこ引いちゃう?引いちゃうのかな?」

なにその生気が失われたような声。
そんなに残念?
そうだよね、ヒロインに「うわあ」なんて言われちゃってさあ…

えなに?違う?
俺の発言に対して?は?キモい?
…ちょ、ちょっと待って。これ俺用の夢でしょ?こんなときに限ってギャグとかほんとクソ喰らえなんだけど。
てなわけで引き戻さねーと。

ムードってもんが大切だよな。


………。


きっとコレ、銀さん視点だから悪いんじゃね?
シリアスなときに余計なことばっか考えてるってのがバレバレなんだよなコレ。つかなんで俺の脳内がさらけ出されてるわけ?
本当今でさえマズイとか思ってるよ。あ、俺じゃなくてここの管理人さんがよぉ。
……やべ、これ言っちゃいけねーってやつだったんじゃね?もう言っちゃったからアウトじゃね?なにこれ一人夢?これ妄想?

あーこれ終わったらケーキ食べっか。
新八も神楽いねーし。隠しといてよかったー。いやホント糖分が足りねーんだわマジで。



「私ね、テロリストのいるところに行きたいの。えっと…春巻き?」
「あ、ちょっと違うね。はるさ……いやいやいやいや。そんなことはどうでもいいんだ。なまえ、前言ったばかりだろ?テロリストってのは世界的におイタなことしてるの。マジでバイオレンスだから。世界を壊すだかしらねーが未だに中二病から抜け出せないっていうかツンデレとしかいいようがないっての?むしろデレねーな。ほんとあいつら扱いにくいわー」
「銀ちゃん何言ってるのか分からないよ。寝言は寝て言えヨ」
「…え?なに?最後今の空耳?」

ちょっとまって。
なまえどこでそんな言葉覚えたの?
……あ、アレか神楽か。アイツのせいだコノヤロー!!
余計な言葉教えて純粋ななまえの心を弄びやがってええええ。

前なんてドエスとドエムの二つを教えやがって、道端で「なんて意味?」なんて聞いてくるから散々だったぜコノヤローが!


「銀さんはなまえを危険な目に合わせたくないの。俺としては切実に」
「うん。わかった。テロリストにはあわない」

どうやら何度言ったのかもわからない切実な思いが通じたらしい。
不満そうに頷いて睨みつけてくれた。


………睨みつけてくれた?



あれ嫌われてる?っかしーな。




「でも晋助兄ちゃんに会いたいの!」
「やっぱり!そう来ると思った!ダメです。変わらないから!名指しなんて以っての外!あんなテロリストになんか渡しません!」



ダメダメダメ!

考えるまでもなくそれは無しだ。

こんな可愛らしい子をあんなバイオレンスな環境に連れてくなんてできません!
人生をダイナシにする気?
そんなこと銀さんが許しません。




ダメ、ぜったい。




何を隠そうなまえは皮肉なことにあの万年中二病テロリストの妹だ(…本当は認めたくないけどな)
まあ、いろいろワケあって万事屋にいるわけだ。

こんなちっせー子供をそんな場所に巻き込むわけにはいかねーから無理やり引き留めてはいるんだが、なんせ餓鬼だ。家族が恋しいんだろう。事あるごとにあいつの名を呼び、会いたいと乞う。

今それを阻止するのが俺の役目というわけだ。







「なんで…っどうして銀ちゃんはダメダメっていうの!お風呂一緒に入らなきゃダメ!一緒に寝なきゃダメ!一人でお外に行かせてもくれない!みんなダメダメばっか!」


「…あ、いや、ちょ、ちょっとそれは確実に誤解招いちゃうよ。読者ついてきてないと思うんだ」


足りない!
何かが足りない!
俺犯罪者になるんじゃね?

なにこれ監禁?ロリコン?幼女趣味?


ひとつひとつの行動にはちゃんとした理由があるんだよ!!

ひとーつ、溺れちゃうかもしれない!
ふたーつ、一人じゃ寂しくなるだろうって!
みぃーっつ、街出たら確実に迷子だし!

ってさ!





なまえの表情がはたりと止まったかと思えば…


ぽろぽ、ろ…と…落ち、る…涙…!?





「ふえ〜ん!銀ちゃんの意地悪!」





ギャアアアアアアッ!

泣いたアアアアアアア!!

泣いちゃったアアアアアアア!!




どうすんのコレエエエ!
俺?俺のせい?
よかれと思った行動がなまえを泣かせちゃった!?


やべェ!

まずいよこれ!

神楽や新八にどやされるウウウ!!



「だあああ!っほら、ケーキ!ケーキあげるから、ね?ね?」
「う…」
「泣き止んだらチョコレートだってあげちゃうよ?ほんとだよ。銀ちゃん嘘はいわないよ。最近じゃ歩く正直者で通ってるくらい俺スゲーから」
「ちょ…ちょこ……け、き…」
「(よしきたこれ!!!)あのね、何度も言ったように危険なの。そんな場所へ連れていくなんて俺は出来ないなーわかってくれないかな?」

少し考え込んだ挙げ句、


「うん。銀ちゃんで我慢する」



子供って単純んん!!!


マジでかわいいんですけどオオオオ!!
我慢って言葉が気にかかるけどいいよもう!!
聞かなかったことにする!

あんな隻眼野郎なんか糞くらえだ!
なにこの真逆!
血が繋がってるとは思えないよこれ!


遺伝子?

親御さんの遺伝子万歳?

えっ?

なに天使?

この子、女神様?



「なまえ!寂しかったら銀さんの胸を使いなさい。いつでも空いてるから。熱く抱擁してやる!なまえにだけ特別大サービス!」
「えー…いらない」
「いったね!スパッと斬っちゃったね。ヤバイねそれ。それはかなりまずいよなまえ、空気読もう。これは俺との絡み希望の読者が見てるからさそこはラブラブしなきゃ、今流れ的にいい感じに…」
「い・や。幼女相手に何言ってんだ天パ!ドエム!」
「やめてー!!その真顔やめて!なにそれこわい!子供のする顔じゃないから!」

神楽のやろー!
なんでもかんでもなまえに言葉を教えやがって!





子供をあやすとき、まずはお菓子で釣ってみろ
(はたしてこれは何度目の会話かねェ…)



「銀ちゃん苺ぎゅうにゅーもちょうだい」
「え?それは俺の大切な補給……う、ウソです!だから泣かないで!(俺の隠し補給分がァアアアアアッ!)」

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