「おめェは竜のダチだよな?」
「あ、ホントだ。いつきちゃんだ」
「おめェさんらはモトチカと慶次だべか!?」

互いに顔を見遣り知り合いであることを三人は確認する。

「どうしたよそんな血相かかえてよォ」

知り合いならばここで和気藹々と言葉を交わすはずなのに、いつきちゃんは二人をじっと睨みつけて一歩も動かない。




「おめェさんら、いってえここに何しに来た。シラを切ることは許さねェ」


彼女の手に握られているのは少女ほどの大きなハンマー。
みるからに重いそれを手前に構えドスの効いた声で威嚇してみせた。


「あらら。そんな敵意剥き出しで一体どうしたのさ」
「今すぐ解放するだ!おめェさんらだどもこの家に手を出したら容赦しねェぞ」



明らかに怒ってる。


いつきちゃんは彼等に怒ってる。



解放?この家?手を出す?

その原因は何だろうと思うけど、いつきちゃんのその言葉だけじゃ情報が足りない。







「なまえ姉ちゃんに手を出したらオラが許さねェだよ!」



「は?さっきからお前なにいって…」
「村の人達がなまえ姉ちゃんちに不良がおしかけてるって言ってただ!」

まさかおめぇさんらだったのか!とハンマーを構えたいつきちゃんはまるでフーッと威嚇している猫のようだ。


「そりゃ悪いことしちまったなぁ」
「なんだ。いつきちゃんはなまえちゃんと知り合いなんだね」

ハッハッハッ
なにかが解決したわけでもないのに笑い始めた二人。










「いやあ…変な誤解を招かれてるねぇ。通りで最近家に人が来ないわけだ」
「おいなまえ、見てたんならあのガキをとめやがれ」

そんな光景を玄関の扉の隙間から伺っていたわけだけど、私の存在に気づいていたチカちゃんが面倒臭そうにこちらを振り向いた。

面白くてついね。
私の為に修羅場が出来るなんて早々ないんだもん!


「なまえ姉ちゃん!そこにいるだな!?安心してくんろ!今助けるだで!」
「えっ、ちょ…ま!!?」

見物しすぎてしまったのか痺れを切らせたいつきちゃんは今にも二人を潰してしまいそうな勢いで向かってきた!「待って待って待って待ってええええ!」と途端に連呼する私の必死さに気づいてくれたいつきちゃん。
遅ばせながら事情を説明し何とか二人が私にとって悪者じゃないことを理解してもらえた。



小さいながらもいつきちゃんはとてもしっかりしている。
そんないつきちゃんと出会った始めの彼女の第一声は「だらしねぇな姉ちゃん」だった。……。なんたって野良猫に餌あげようと屈んだときにカゴに入ってた果物をばらまいてしまいまして。そんなドジさを見てしまったいつきちゃんがひょこりと現れて拾うのを手伝ってくれたんだ。……と、まあ初っ端から迷惑かけてるんだよね。
そこから仲良くなって、いつきちゃんの話を聞いたり、今日は偉い侍に年貢を納めただと言ってたり、よければ…と家に招待してみたりして、それからいつきちゃんの村が遠いことを聞いて薄暗くなりかけてたから心配だったので無理に泊まってってーとお願いしてみたり。


…とまあ大の仲良しなのです。
いつきちゃんがこの家に来るときは城下街で物を調達するためのときと侍に呼ばれたとき。それから私が恋しくなったとき。えへへ。






いつきちゃんを我が家に招き入れ、今日のおやつとしてポテトチップスを用意してみた。
それを私といつきちゃん、チカちゃんに慶次君で囲んで食べる。
パリパリして美味しいと言ってくれたから一安心。


「それにしても姉ちゃんはこの二人と知り合いだったんだなぁ。この二人がいたら米なくなっちまっただろ?今日はちょうど米を譲りに来ただよ」

にっこりと笑ったいつきちゃんの小さな手からどーんと現れた米俵。
この可愛らしくて小さな女の子にどうしてこんな力があるのでしょう…!毎度のことながらこの衝撃映像をみて感銘する。
羨ましいよその腕力!ああ私にもそういう補正がついてたらよかったのにな!


「いつも有難う。いつきちゃんと村の人達が丹精込めて作った美味しいお米を運んでくれて。でもくれるなら私が取りにいくのに」

そんな私の言葉にいつきちゃんは当たり前のように首を横に振った。

「おらの村はこっから遠くて危険なのは知ってるだな。だから姉ちゃんには無理して怪我して欲しくないだよ」

ハンマーを持ち、「おらには力がある」と言った。彼女が持っていて私が持っていないもの。それを考察するならば簡単だ。
それはいつきちゃんなりの優しさで、力を持たない私にはどうすることもできないものだ。




私の為にと笑う少女。



「それにおら、姉ちゃんにそう言ってもらえるだけで嬉しいんだべ」


勝手ながらいつきちゃんのことを私は大切な妹だと思ってる。
かけがえのない妹のような存在。



「なまえ姉ちゃんはトロいからなぁ。まるで妹みてーで目を逸らせられねェ」
「わ、私もいつきちゃんをお姉ちゃんのように思っ!!………え?」





あれ?

いもうと?




わ、わたしがいもうと?


いつきちゃんがおねーさん?




あれ?



確かに妙に納得してしまったけど。



って納得しそうになる私が悲しいよ!




「それに弱っちいからな!オラが村から運ぶ方が速ェし安心感が違ェだよ」
「うわあ…わかりやすいオブラートの包み方だね」
「いい子なんだよ。いつきちゃんは本当にいい子なんだよ」
「子供って残酷だよな」
「うっ」

ずず、とお茶を啜るチカちゃんと慶次に返す言葉もございません。



悪気はきっとないんだよ!
いつきちゃんはとてもいい子だもの!

トロいお姉ちゃんだけど、まだいつきちゃんに姉という立場は譲れないよ!
譲ってたまるもんですかっ(立場的に怪しくなっちゃうよ!)




世話のかかる妹のような
(なんだかほっとけねーんだべ)



「さて、そろそろ俺ァ四国に戻るぜ。野郎共が泣き出さねェうちにな」
「あ、なら俺が京までは道案内するよ。これも何かの縁だしさ」
「そりゃ助かるねえ!」

「そっか。寂しいけど…また来てくれたら嬉しいなぁ」

賑やかだった家も静かになるのかな。ちょっと寂しいな。なんて思うけれど

「姉ちゃん、おらがいるだ」
「う、うん!!いつきちゃん絶対泊まってってね!」
「んだ!一緒に寝ような姉ちゃん!」

心優しい少女がここにいます。
そして、

「またななまえ。今度は海の土産たんと持ってきてやるからよ」
「なら俺は海鮮に合うつまみでも持ってこようかな。またなまえちゃんの料理食べに来るよ」
「キキ!」

「うんっ私待ってるね!」

もう君達と私は友達。
またきっと会える。



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