チカちゃんの看病をしはじめて、一つ屋根の下。





………。


いやいやいや変態な意味じゃないよ。




ただ彼の帰る家というのがどの辺りかわからないんです。

正確にいうと私自身がどこに住んでいるかわからないだけ。
長い間此処にいるわけだけど住所とか気にしたことなくて、「ここは何処だ?」っていうチカちゃんの何気ない疑問に答えられなかったのです。
でもチカちゃん曰く自分の住んでいた場所よりだいぶ寒い様子。(その格好じゃ当たり前だろうよチカちゃん!)
私的には困らないというか寧ろチカちゃんは患者さんな訳で、この家に住まわせています。


……まあ患者さんといってもチカちゃんはそんなタマに収まるような簡単な人ではないことはわかってたよ、うん。
今もほら森に散策しに行ってるからね私と一緒に。
今日の夕飯をゲットするためにキノコ狩りに来てるわけですよ。
食べられるキノコとかは前に村の人達から教わったから大丈夫なはず!


まあ、私が彼を無理やり寝かせられなかった本当の理由は「世話になりっぱなしは嫌だ」といったチカちゃんになんて律儀で仁義に熱い人なのだろう!!!と感動してしまったから。
そのまま流れに流されるままとなった私は今振り返ってみて丸めこまれたように思う。…ははは。

でもまあ、終わったことだと諦め今はただ食材集めに勤しんでいるわけ。






二人でキノコ狩りに勤しんでいれば頭上からなにかが降りてきた。
かさりと地面に落ちている木の葉が音を出しふと前を見れば、


「キキッ!」

と可愛らしい声を上げた子猿が一匹。

こちらを見つめるその視線にドキューンと心を貫かれた気がした。


「チ、チカちゃん!!たいへん!お猿さんがいる!」
「はあ?それの何がたいへ………、お。こいつは…」

チカちゃんがお猿さんの姿を見ると何かを思い出そうとするように唸った。
そんなチカちゃんを私がじっと見ていれば、突然ガサガサと鳴る草の音。
それを耳にしたときチカちゃんが私の前に立ち、前方の視界を遮った。


鳴り響く草の音がどんどんと近づいてくるのがわかりチカちゃんはぐっと身構えた。
見えなくなってしまった視界を再び見るべく身を屈めてチカちゃんの脇からその様子を伺った。








「…夢吉ぃーどこいったんだー?」


そこから出てきたのは人間だ。
ひょこりと現れた男の人はこちらを見て指差した。




「あ」
「あ」

「……?」

それはチカちゃんも一緒で、お互いに顔をみやっていた。




「元親じゃないか!久しぶりだね!!」
「………」

ぱっとまるで花が咲いたかのような笑顔をほころばせた男の人と、明らかに会いたくなかったという表情をみせたチカちゃん。


二人の姿からわかるのは見知った仲なんだろうということ。


「チカちゃんの知り合いなんだね」
「ま…まあな」

「おっ!何々?女の子連れてんの?さては恋の花でも咲かせたかい?」
「相変わらずその脳みその作りはかわらねーんだな」


男の言葉を軽く受け流すチカちゃんをよそに私は目の前に現れた彼に軽く頭を下げた。







「その子猿は夢吉ってんだ」
「キキッ」

いつの間にか私の肩に飛び乗った子猿ちゃん…もとい夢吉ちゃんは首に擦り寄った。
くすぐったさに身を歪め小さく笑いつつ「私はなまえです」と彼に笑った。

「なまえちゃんかぁ。俺は前田慶次。よろしくな!」

にっと笑った慶次さんに私の顔はピシッと凍りついたように動かなくなった。

「え……ま…まえ…だ、けいじ……さん?」
「ん?俺の名前がどうかしたのかい?」
「あ、ううんっ何でもないです!」

前田って…もしかして花の慶次?
…うそん。そんな…わけ、ないよね。人違いだよね。名前違いだよきっと。
そんな簡単に歴史の有名人と話ができるわけないって!あはははは!



「というかなんで元親が此処に?随分と離れた場所にいるんだねぇ。これはもしかすると遠距離れ…」
「なわけあるかアホ。嵐で流されてきただけだ」
「なるほど!それで一目惚…」
「だーっ!テメェはいい加減にしやがれ!」
「ははっ冗談だよ冗談。しっかし奥州にいるとはねぇ、驚いたなぁ」
「はっ?!奥州だと!?」
「えっ奥州!?(そりゃ寒いわけだ!)」

「なに二人して知らないの?」




あらま新事実。


「此処はね独眼竜と名高い伊達政宗が統治する国さ。そんなことも知らずによくいるね」
「へ、へえ〜……私特に気にしてなかったんです。住み心地よかったし」



今まで誰にも聞かなかった私が悪いわけなんだけど。



まあでもいつかお礼言えたらなぁ…

なんてことを思うけど、まあ、無理でしょうよ。なんせ相手は一国の王だし。
………ということで心の中でありがとうと言ってみた。





「まあ、こいつちっとオカシイ奴だからよ」
「あれ。やっぱり変人?」


結局私チカちゃんにも変人扱いされてしまったようだ。





じとっとした目でチカちゃんを見れば、チカちゃんは苦笑にも似た笑顔を浮かべ私の頭をかき乱した。
やめーい!!と声を出しながらその行動に反抗してみたけれど、グウ…と突然聞こえた腹の音。
その音に思わず目がいきそちらをみやればそこには「あはは…」と笑う慶次さんの姿。


「慶次さんお腹空いてるんですか?」
「…ちょっと食いそびれちゃってね」

いきなり見つかっちゃったからねぇ、と呟いた慶次さんの怪しげな言葉は聞こえなかったふりをして一つの提案をしてみせた。

「ならちょうどよかった!これからご飯にしようと思ってたんですけど…オムライス食べます?」
「おむ…?な、なんだいそれ?」

私の言葉に首を傾げる慶次さんの反応は最もだろう。

「米に卵を包んだ料理、かな。自家製ケチャップもあるからおいしいはず!」
「俺もそれ食ったことねーけどなまえの作る料理はすっげェうめーぜ。俺が保証してやる」
「わわっ」


褒められるのは嬉しいけどのしかかるのは辛いよチカちゃん…!

でも美味しいって言ってくれて嬉しいよ…!


「じゃあお言葉に甘えて御馳走になろうかな!な、夢吉。いいよな」
「キキ!!」
「なまえ。…この取ったキノコはそれに使うんだよな?」
「そうです。取りすぎちゃったんでキノコ炒めにもしようかなって思ってますけど」




一人と一匹が増えて森を歩く。



そしてもっとにぎやかになった我が家では黄色い卵に包まれた、彼らにとって摩訶不思議な料理が陳列した。
不安げな彼らの視線にも特に気にせずその料理を食べるようにと自分でそれを食べ彼らへと促した。


それはもう怪しいものでも見るかのように不安げに口に運んだ彼らの動きがピクリと止まり、ゆっくりとした動作で此方に顔を向けた。

そしてにんまりとした瞳を向けて笑う。




未知の料理
(なにこれ!?すっごくおいしいっ!)



「そうだ。慶次君も泊まってく?」
「そりゃいいな。泊まってけよ、このままじゃ野宿だろ」
「ええー!?小空ちゃんは危機感ないの!?まあでも喜んでっ」



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