海といえば釣り。
釣りといえば新鮮な魚。
…私が何を言いたいのかといえば今日の夕食はお魚が食べたいわけですよ。

ということで私は今海にいて釣りをしているわけ。


なのに…
魚が一匹たりとも釣れないとは何事!?

このままじゃ夕飯ないよー!
いや米あるけどメインディッシュが欲しいよね。贅沢かもしれないけど米だけじゃさみしい!




……。


場所が悪いんだ。きっと!


切り替えの速い私の脳みそ。
場所を移動するために立ち上がってぱっと視線を変えたときだった。




「あ、漂流物はっけーん」


それはちょうど私の目に止まった。
ざばーんと波打つ水しぶき。
その隙間からかすかに見えた人間?…ん?にんげん??
まじまじと見る先には間違いなく人が倒れてる。目をごしごしと擦っても人だ。幻覚でもないよね人だよね。


「………。んー見捨てるわけにもいかない、か」


善人ではないけれど見てしまったのを放っておくわけにもいかないだろう。
はて、この人をどうしたものかと悩んでいれば私の背後から唸る声がした。
聞き慣れたそれにちょうどよかったと振り向き笑った。














今現在進行形で布団に横たわる、例の漂流物。
魚の代わりに手に入れた漂流物もとい人間はイケてるメンズ…つまりイケメンであることがわかった。目を閉じていても私にはわかる。
この人は間違いなく美形の部類に入るはずだ。

白髪で右目を隠した、まっことガタイの良い人。

青々としていた空はいつの間にかオレンジ色に変わりつつある。
目を覚まさない時間が続きこの人は本当に大丈夫なのかと少し不安になりつつも、今はただ見守ることしかできない。

すると少し瞼がピクリと動いた。目をひらいた。ぼんやりとした眼差しが天井を見て、しばらく間をおいたあと周囲を見渡す男の人。



「…、…ここは?」
「よかった。目が覚めたんですね、此処は私の家ですよ」
「あ?」

ふいに呟かれた言葉を返し私は一安心する。(あ?、ってちょっと怖いんですけど)

「野垂れ死にしそうに見えたんで連れて来ました」
「野垂れ…そういや、俺、船から落ちた部下を助けたあと嵐にのまれてから記憶がねェな」
「それは大変でしたね。あ、無理しないでください。体はまだ本調子じゃないはずですから」
「悪ィな…。嬢ちゃんには世話になったってことだよな?」
「いえいえ。誰が見てもあれは放っておけないですよ。命が無事で何よりです」
「俺ァ長曽我部元親っつーんだがお前ェの名はなんていうんだ?」
「ちょうそ……ちか?なんか長…。私はなまえ。で、この猫ちゃんがジャスタウェイ」

そばにいたのでついでに猫の名前を呼べばにゃーんと元気のいい返事が返ってきた。
えへへ。まさかのアレです。アレから名前頂いちゃいました。別に私のネーミングセンスが悪いのがばれちゃうとかそんな事考えてないよ。ただね、このふてぶてしい眼差しが似てたから付けてみただけだよ。

って私自身の自己紹介が短いのはきにしなーい。


「じゃす…た、?まてまて猫の名前も長ェし、変な名前だな」
「ははは。そこは特に気にしないでください」
「なまえが俺を運んで来たのか?」
「まさか。実は私ここらで変人って知られてるけど、チカちゃんみたいなガタイの良い大人を移動できるほど力持ちじゃないです」
「チカちゃん…ってオイ」
「最後だけきっちり聞き取れたんでチカちゃん。ダメですか?」

ダメも何も女みたいじゃねーか。と突っ込まれてしまった。
だけどチカちゃんは私の頭を撫でて「好きに呼べばいいさお前は恩人だからな」と笑った。


「しっかしなまえは変人で知られてるのか。まァ俺には全然見えねーから安心しな」

それは嬉しい。
巷では、≪あの変な女≫と誰かが呟けば頭に浮かぶのは私らしいよ。
なにそれ。
私普通に生活してるだけですけど。








「ちなみにチカちゃんを運んでくれたのはエリザベスくんですよ」
「えりざべす?なんだかそいつも変な名前だな。まァ、世話になったわけだし礼を言わなきゃな。どこにいるんだ?」
「森にいます。お礼なら魚あげてくださいね。言葉じゃ喜ばないんで」
「どういうことだよ?」




そんな彼にふふふと笑っていたんだけどチカちゃんは突然立ち上がった。
私としてはチカちゃんはまだ起きたばかりだから安静にしててほしかった


んだよね…。



「なあなまえ、釣り道具あるか?」
「?それなら玄関にありますけど」
「なんだ準備が速ェな!」
「え?…え、え?」

「んじゃちょっくら海行くか!塩のニオイは……。こっちだな」
「な、なんでわかるの?!海のニオイしないけど!っじゃなくてえええ!」

この人はなんて自分勝手!
私が体を張って止めるのだけど逆に引きずられてる!力強!強すぎだよバカヤロウ!!


「そんなに急がなくても海もエリザベスも逃げませんよ…!だからまだ寝ててください!体に毒ですから!」
「ああん?俺の体力をナメんなって。嵐にのまれるなんてしょっちゅうだぜ。なんせ俺は海の男だからな!」
「あーもう!私これでも医療をかじってるんです!そんな私からのお願いです!患者さんは安静にすることが鉄則なんですからじっとしててください!」
「じゃあなまえもついてこい。お前がいれば問題ないし、危険そうだったら連れ戻せばいいだろ?」



うわーん!

この人私の話聞いてくんないよー!




必死に引き留めようとする為に、腹に自然と力が入った私なのですけど、それが悪かったのか。


ぎゅるるる〜〜!!



「え、」
「お?」


わたしのおなかが
せいだいなうぶごえをあげたのだ!▽



「なんだなまえお前、腹減っ…」
「ギャアアア!これはっ違う!お腹の音なんかじゃないいいい」

くそう。腹の虫めええええ。
女の子とあろう者が音を出しちゃうなんて!恥ずかしいにもほどがある!


「そんな隠すなって。助けてもらったんだ礼をさせてくれてもいいだろ?」

今日の晩飯は釣った魚食おうとチカちゃんは笑う。
それに思わずヨダレが垂れそうになった。
そんな食に対する強い意識をシャットダウンさせはっと我に返る。が、チカちゃんから「スゲー食いたそうだったな」と言われてしまった。
そういや私顔に出やすいんだよなぁと改めて思い知らされた。

「じ、実はちょうど今日魚が食べたかったんです。海行ってだけど魚釣れなくて、チカちゃん見つけて、まだ何も食べてないんですよね」

あははと笑ってみる。



するとチカちゃんは「心配すんな釣りなら得意だぜ」と自慢げに言い、右手には釣り道具左手には私の腕を取り歩きだした。
まだ安静にしていてもらいたいのにと思いながらチカちゃんの行動に流れに流されつづけ海へ案内してしまった。

チカちゃんがちゃぷんと海に釣り針を入れた瞬間、竿が大きくしなりチカちゃんは魚を釣り上げてしまったのだ!なにその速さ!得意とかっていうレベルじゃないよこれ!?
私の努力は一体なんだったのと叫びたい。



さすが海の男というべき……?

















「えりざ、だかなんだかに礼をしてから飯食おうな」
「エリザベスです」
「そうそれだ」
「帰ったら料理は私がしますから」
「おう。期待してるぜ。………つか、なんでそいつはこんな森ン中にいんだ?」
「それはですね……あ、ほらいました」

帰路へ向かう前に二人で海に隣接するちょっと茂った森の中へ入れば、そこにはでーんと構える私の友達。


「うわ…なんだこれ」
「エリザベスです。可愛いでしょう?」

ふふふと笑うなまえの隣に、対称的な生き物が一頭。




そう一頭。


がうううと唸る姿は尋常じゃないらしく「あれ怒ってるだろ!間違いなく!」とチカちゃんの呟きが聞こえた気がする。

だけどそれを聞こえないふりしてエリザベスの大きな体を撫でてあげた。
するとエリザベスは幸せそうな声をだして喜んでいた……と、思う。



「…熊を手なずけてやがる」


エリザベスに熱中しすぎて唖然としたチカちゃんの顔には気づかなかった。




変人という名の称号
(ある意味間違ってないだろ)




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