「なまえー!」

馴染みのある声が聞こえてきた。
その手には何かを持っているようすで、それをゆらゆらと揺らしながら現れた。

「作り過ぎたからおすそ分けだ」
「わあっずんだ餅だ!嬉しい!」


この人は私の友達。


「いつも有り難う藤次郎君!」


目が合えば口元が上がる。
名を呼べば笑う。

君はたまにくるお客さん。





そんな私達を取り囲むように現れる、私の家から少し離れた位置にある集落の子供たち。

「わー!藤次郎だ!久しぶり!」
「こっこら!呼び捨てはダメだよ!」
「ごめんなさーい!」
「藤次郎さんこんにちはぁっ」
「おーみんな元気そうだな」
「最近ずっと見てなかったー!どこにいってたのー?」
「ちぃっと野暮用が片付かなくてな」
「そうなんだ?お疲れさまー!」
「お疲れさまー!」

きゃっきゃっと藤次郎君の周りに集まった子供たち。藤次郎君が大きな手でわしゃわしゃと子供の頭を撫でれば、「痛いよー!」と冗談を交えながら笑う。
そんな姿はとても微笑ましい光景だった。














「じゃあねなまえ先生っ」
「うん。またねみんな!」

さりゆく子供達に手を振り、藤次郎君と二人になる。

ふと藤次郎君の方を見れば彼は脱力しきった表情で天を仰いでた。
それもそのはずで今の今まで元気盛んな子供達相手にはしゃぎまくってたから。
まだまだ若いだろう藤次郎君も子供達の気力には敵わないらしい。
彼の前に「お疲れ様」と温かなお茶置く。
Thank youと返ってくる返事に私は笑い、もう一つの湯呑みを手に取り口に含んだ。


「なあ、今日も夢の話聞かしてくれよ」

ほっと一息ついていた私に、いつの間にか上半身を起こした藤次郎君がにかっと笑った。











「Ah!? 鉄の塊が海に浮かぶ?」
「うん。たくさんの人間を乗せてね海を渡るの。それに海だけじゃなくて空だって飛ぶよ」
「なに!?鉄の塊が空も飛ぶのか!?」
「これもまたね、雲が下に見えるくらい高く飛んでたっくさんの人間を運ぶの」
「そいつはCoolだな!」
「でしょ!」

藤次郎君は本当に不思議な人で。
この時代で南蛮語というものを器用に使うのだ。
子供達にわかるものじゃなく他の人も大概わからないだろうなと藤次郎君は言った。
そんな南蛮語を私が理解してたとき藤次郎君は凄くビックリしてたっけ。



区切りのいいところまで話し終えて私は一息入れなおす。
私が今話した内容に藤次郎君は何かを疑うわけでもなくそれを受け入れてくれる。


「普通私の夢の話なんて好き好んで聞かないのになぁー」

ぶっちゃけていうと私は≪変人≫として知られている。
理由は変な話を語るからという簡単なもの。
それを話すと気味悪がられるから子供達の前や村人の前ではなかなか話さなくなった。その話さえなけりゃ普通の女の子だと言われてはいるのでこの小さな関わりをなくさない為にも彼らには言わない。
でも気味の悪い話も藤次郎君にとっては別らしい。

「私の独り言だし、きっと非現実的すぎてつまらないだろうし」
「なに言ってんだ。いるじゃねーか此処に」
「そっか。そうだね藤次郎君は変な人だったね」
「おーおー。その口か、余計なことばっかり言うのは」
「…い、いひゃいで、すよー」

むにっと掴まれた両頬。
そのせいで思うように喋れなくなって藤次郎君は私の声にぶはっと笑う。






私には秘密がある。

誰にも告げない私だけの秘密。


きっと、これからもずっと誰にもいえない。







「そ、それにしても藤次郎君はいつも何してるの?最近は忙しいって言ってたけど…」
「…Ah…お前はなんだと思う?」
「え…。え、えっと私はね、」

まさか疑問が返ってくるとは!
足らない頭で考えて、ふと見えた藤次郎君の手に触れた。
子供達や村人達と違った手の感触。
ごつごつしていて男の子なんだなと実感するけど農民達の手じゃない。
それでも手の平にはいくつか豆ができていたりして何かをしているのだと予想はつくけれど…。

「わかんないや。うーん、藤次郎君は手が綺麗だしなぁ」
「綺麗じゃない。汚ねぇ」

彼ね手がそっと私の手から離れる。汚い、そう言った藤次郎君の顔はひどく哀しそうだった。
その行動は藤次郎君にとって無意識だったらしくじっと固まったままの私に「悪ィ」と一言謝った。

「ううん。そんなことないよ」
「俺の手は…」
「汚くない。私藤次郎君の手好きだよ」
「……なまえ、」

離れてしまった手をもう一度合わせて彼をみた。

「藤次郎君が汚いっていうなら私はずっと綺麗だって言う。私がぺたぺた触って汚いって言わせなくしてやる」

一瞬驚いたような顔をみたあと藤次郎君の表情は呆れた顔に変わってしまう。
でもそれで優しい顔。


「お前には敵わねーな」
「褒め言葉だねそれ」


別に知らなくていい。
別に言わなくていい。

私は君が笑ってくれるなら構わない。










「じゃあ気をつけてね藤次郎君」
「ああ。なまえまたな」
「うん、またね」





私が何者であるかも彼は知らない。


彼が何者であるかも私は知らない。



そんな不思議な不思議な友達関係。




お前が一番輝くその瞬間
(それを語る時の顔がみたいんだ)




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -