「おお!この方があの団子を作られたなまえ殿でこざるか!」
「…え、だ…誰!?」

ガシィイイイ!
と掴まれた私の手。

キラキラ輝かせた瞳で私を見つめる赤い色を纏った男の人は、私と目が合うといきなり己の顔を真っ赤にさせ手を放しながら「破廉恥!」と叫んだ。はっ破廉恥!?ちょ、私が破廉恥ってこと?!なぜに!?誰か教えて!

「もっ申し訳ない!突然、おおおっ女子の、お、お手に触れてしまい心からお詫び申し上げまするぅぅ!」
「い…いえ。お気になさらず」

嬉しそうにしていたと思えば顔を真っ赤にさせ挙げ句には慌てた表情でこちらを見る。なんてころころと表情が変わる人だ。

というかどもりすぎ。
もしかしておなごが苦手なのかな。

そんなことを考えていれば赤い人が再びどもった声で私を呼んだ。


「も、申し遅れた!某、真…ブッ」
「はいやめてー(こーらー本名言わない!)」

そんな赤い人の言葉を遮る声。
彼の口に手を当て現れた人は私のよく知った人物だ。
視線を赤い人からこちらに移しニコリと陽気に笑う迷彩柄を纏う人。

「あ、佐助さんだ」
「やっほーなまえちゃん。突然ごめんねぇ」

たいして悪びれもない謝罪を私に向け手を振る佐助さん。
なんとなく彼らしくてそれに応える為に手を振り返してみる。

「す、すまぬ佐助。…さっ佐助は本名ではござらぬか!!」
「あはーバレちゃった?」

佐助さん!その言い方はあからさますぎると思います!




「幸村にございまする」
「もー旦那ぁ…。なまえちゃん、この方が常日頃から言ってる俺様の上司」
「いつもとは何を言っておるのだ佐助ぇい!」
「な、なんだかよくわからないけど……なまえです」

軽くお辞儀をしてとても丁寧な挨拶だ。
そんな幸村君につられて私も思わず頭を下げてしまった。


「某佐助からなまえ殿の団子を頂戴いたし誠に感服いたしました!あれほど美味な団子を食したのははじめてでござった」
「あ…ありがとう」
「是非一度感謝を致したく参りました。佐助も貴殿にお世話になり申しているようで」
「律儀なお人ですねぇ」
「め、迷惑でござったか?」
「まさか!ただびっくりしたんです。わざわざ有り難う幸村君」

なんだ。
出始めはちょっと戸惑ったけど普通の人じゃないか。


この人が佐助さんの言っていた旦那で、幸村君という上司。
私の団子をたくさん食べてくれる人なんだよね。
もっと怖そうな人を想像していたけど思ったより若くて優しい人だなぁ。
佐助さんが嘘ついてるんじゃなかろうかと思うくらいいい人な気がしてならない。
でも、まあ、まさかお礼をする為に来てくれるなんて思いもしなかったけど。

………。

というか今更だけど上司と部下の関係って貴方達一体どんな人なの。



「幸村君、佐助さん。よかったら上がって行ってください」
「しかしお礼を申しに来たというのにまた世話になっては…!」
「お礼はお礼として有り難く頂いておきます。今は遥々来てくれたから労いですよー。それに私が好きでやってることだし気にしないでください」

嘘も何もない本心の一言。
一緒にお話するのも人を家にあげるのも、食べ物を提供することも私が好きでしていること。


渋る幸村君の背後に周り背中を押す。
少し強引にあがってけーと言えば佐助さんも私の言葉に同意してくれた。


「かたじけない」

柔らかく笑った幸村君の笑顔はとても可愛らしかった。
いいなぁ。無口な人やカタブツなお人など誰其構わず癒してしまいそうなそのスマイル。










二人を家に上げ一人ルンルン気分で台所から例のアレを取り出す。
…ん?アレって何かって?もちろんアレですよ!
白くてフワフワで甘くて舌がとろけそうな洋菓子!

「ようやく念願の食材を手に入れたから作った力作のショートケーキです!」

どーん!とホールを一つ、二人がいるテーブルの真ん中へ置く。
真っ白にコーティングされたそれを二人はビックリした様子で見つめてきた。
まだ切っていないので二人の目の前でカットし皿に分けてフォークと一緒に差し出した。

きっと二人には見たことがないのだろう。
頭の上にクエスチョンマークがいくつか出ているような気がした。

「しょーとけーき…で、ござるか?」
「あっやしーね。この上にある赤いやつなんて間違いなく毒でしょ」
「毒じゃないよ。あのね、苺っていうフルー…間違えた。果物なんだよ」
「これが?果物なの?」
「うん。ショートケーキっていったらやっぱりこれがなきゃね」

作ろうと思えばなんとか作れたんだけど、やはり苺が飾られないショートケーキはケーキじゃないということで今まで作れずにいた。
だけど極秘ルートで苺を手に入れることができたから作ってみたわけ。
というか私が作るものは殆どの場合極秘ルートが不可欠だったりするからね。
なにはともあれ作ったのはいいものの一人でこれをどうしようかと困っていたことろだった。
ちょうど幸村君と佐助さんも来てくれて万々歳だ。

「こーいうのは繊細なナマモノだからあまり持ち帰りには適さないかもしれないです。衛生面が怖いから」
「ならば此処に来なければ食せない物でござるか?」
「そういうことです。ちなみに下準備も時間かかりますよー」

大丈夫だと主張するべくまずは自分が一口。…うん、味は大丈夫なはず!

「か、かたじけない!頂くでござる!」

苦労もあってこれを作ったのだと知った幸村君は私の食べ方を見よう見真似だが慌てて食べ始めてくれた。



「おお!これはなんと不思議な!」
「あ、本当だ。この苺とやらも酸味が効いる」

戸惑いを繰り返しながらもぐもぐと食べる二人。
よかった。ケーキ久々だったけどなんとか上手く出来たみたい!

そんな安心感を抱いていれば何か妙な熱い視線を感じた。幸村君だ。
幸村君の皿にはもうケーキはなくて、彼の視線はホールに向けられる。


じっとケーキを見つめるその視線。
…うーんこれは、

「もう一つ食べますか?」
「!、い…いや」
「あ!もしかして実はまずかったとか…!?ご、ごめんなさいっ私、気づけなくて!」
「ごっ誤解でござる!某はあまりにも美味しすぎて…、っ!」

そこまで言って幸村君は黙りこんだ。
その顔から感じるのは動揺や焦り。
私がただじっと見つめていれば幸村君がちらりとこちらを盗みみたのだが、視線が合うとばっと顔を背けられた。…え、何。今度はどうしたの?
そんなことを思っていたら天の助けか、佐助さんが「旦那、言わなきゃわかんないよー」と言った。
佐助さんは黙りこんだ幸村君の何かをわかっているようす。
すると佐助さんの言葉を聞いた幸村君が小さく口を開いた。

「そ、その…!甘味好きの男というのは変でござろう、か…?」
「………」

あーなるほど。
そんな言葉が自然と頭に浮かんだ。
今更目の前で言われても佐助さんがよく言ってたしなあ。

「そんなこと気にしなくていいと思いますよ?だって私にしてみればそれが普通だし。よかった!大したことじゃなくて!」
「……そんなこと…?」
「ほら言ったでしょ旦那。なまえちゃんはちょっとズレてるからね」
「ほらってなんですか佐助さん。さては幸村君に変なこと言ってるでしょう」
「そんなことないよー」

嘘だー絶対嘘だー。
ほんと佐助さんはどこか掴めない性格をしてるよ。



遠慮していた幸村君にカットしたケーキを渡した。「有り難く頂戴致しまする」と受け取る幸村君。
超がつくほどの美男子好青年の律儀さに私の頬は緩みっぱなし。
食べる前から幸せそうな顔をする幸村君の姿を見たら本当にケーキを作ってよかったと心から思った。

「また来る予定が立ったら教えて下さい。甘味用意しておきますね」
「また足を運んでも宜しいのでござるか?」
「勿論。幸村君には是非甘味という甘味を食べて欲しいです。甘味の世界って結構広いんですよ」

また食べて欲しい。
そう思うのは仕方がないはずだ。
この顔を見たら誰だってそう思う。

「ねえ。なまえちゃん俺様には?」
「えー…佐助さん甘い物比較的苦手って前言ってたじゃないですか」
「なまえちゃんのは別だよ!」
「なんてね。嘘ですよ。いつでも待ってますから」

俺様にももう一つちょーだい。と佐助さんから声がかかる。
笑う佐助さんはとても満足そうな表情を浮かべているわけで、私も同じ笑みを返した。



「うむ!まさしくこれは佐助の団子を越える甘味だ!」
「そう言われるとなんだか悔しいねぇ。まあ俺様はそういうの専門じゃないし、いいんだけど」
「…えっと、ヤキモチ?」
「ち、違うよなまえちゃん…!」




菓子の申し子
(この方こそ甘味の理解者でござる!)


「ヤキモチ?うむ、焼き餅がどうしたのででござるか?」
「旦那…」
「ゆっ幸村君…」





◎私は彼らをどうしたいんだ…!orz



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