シンさんが女を拾ってきた。…女とはいえまだ子供と言った方がしっくりくる女だ。俺よりはるかに小さい女はじっとこっちを見上げ、まるで期待にすがるような視線をむけてくる。正直受け止めづらいしなんか嫌な予感しかしない。

「あの…貴方は私を家に帰した方がいいと思いません?思いますよね?もちろんそうですよね??」
「……そりゃあ、まあ…」
「で、ですよね!!!」

家に帰れれば一番いいだろう。だが話を聞いた限りそれは出来ないことだ。この女が家だと話したそこが豚小屋というのならそれは間違っている。折角逃げ出したのに逆戻りになってしまう。
なのに嬉しそうに笑った。俺の言葉に帰れるかもしれないという希望が、その表情を形作るから少し躊躇った。その喜びがどんなに残酷なものか。きっと今のお前に言ったところで理解などしてもらえないだろう。

「やっぱりそうですよね。貴方はあの人達に言いにくかっただけなんですよね。一目でわかりましたよわかりますとも!貴方はとても真面目そうで…一番常識がありそうな無口キャラですね!で、でも口元にピアスは…予想外なんですけどね。いやいやせめてものオシャレ的な感じですか?いいですね真面目キャラでも少しはハメ外したいですもんね。この際ピアスがヘソだろうがケツだろうがどこに刺さっていようと常識があればなんでもいいです。あの人達ちょっと理解し難い思考回路ですからね……ハッ!すみません余計なこと言いましたごめんなさい謝ります。で、ここから本題なんですが…、こっそり外に連れてってもらえませんかね。そこからは一人でなんとかしますんで。……どうでしょうか」
「それはできないっす」
「即答かよ!!」

なんだよ!無理なのかよ!たくさん喋って損したよ!!


女はやけに騒がしい。そして初めてジタンダしている人をみた。俺は絶対にしたくないと思った。


ひとりで勝手にベラベラ喋って、ひとりで勝手に逆ギレして、ひとりで勝手にいじけて隅の方で体育座りをして、ひとりで勝手に負のオーラを醸しはじめた女。黙ったことでいつもならなんてことないはずの静かな空間がとてつもなく居心地が悪く感じた。

…この女は確かなまえと言ってたよな。慣れない環境だろうし不安や恐怖にかられることもあるだろう。それでも豚小屋と称した場所にいるよりかはマシなはずだ。今は無理でもいつかは本当の家に帰れるさ。俺がしてやれることなんてなにもないかもしれないが何かの協力はできると思う。
小さな背中と、うなだれる頭がやけに弱々しく、それをただじっと見ていたつもりが思わず手を伸ばし彼女を撫でていたときは俺自身が一番驚いていたと思う。



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