初めて彼女をみたときから怪しいと疑っていた。
シンドバッドが宙に浮いている彼女を見つけ保護したと聞いたとき他国から密偵が送られてきたのではないかという可能性が脳裏を過ぎった。密偵ならばこのように目立つようなことはせず隠密にするのが普通ではあるが、シンドバッドの性格を利用し物珍しさを醸して懐に入るやり方もあるだろう。現にシンドバッドは彼女をこの王宮に匿おうと躍起になっている。もしこの計画を立てている者がいるのなら上々の出だしに違いない。

なのに彼女の、なまえさんの言動をマスルールと共にシンドバッドの傍で見ているだけで感じたのだ。疑う方が馬鹿げてるとでもいうかのように肩の力を脱力せずにはいられなかった。否、脱力させられたのだ。なんの力もない馬鹿そうでマヌケな顔を見て、挙げ句誰に対しても取り繕う言動もしない。…もし、これも作戦だとしたら凄い賭け事をしたものだ。

「そういえばなまえさん目玉はいらないんですか?残ってますよ」
「えっ…いや…、こ…これはですね、…そうです。目玉恐怖症なんですよ私」
「そこが一番美味しいのに勿体ないですよ。それに好き嫌いはよくないです。頑張ってお食べなさい」
「お…鬼だ…!ジャーさんは鬼だ!」
「ジャーさん?」
「あ…っごめんなさい最後まで覚えられなかったんです炊飯器な印象しかなくてほんと謝りますんでごめんなさい冷たい視線はやめてください心が折れてしまいますもももう一度名前教えて貰えれば今度はちゃんと覚えますんで堪忍してくださいいいい」

勝手に怯えるなまえさんはただの子供のようだ。その姿から、やはり彼女はシンドバッドの言う通り何処からか逃げ出したのかもしれない。こんなに怖がるなんて彼女の身に一体何があったのだろう。そんな右も左も解らない子を追い出すことなど出来ないのは私とて人の子で同じこと。
もし逃げ出した彼女を探す奴らがシンドリアにいるというのならそのときはシンドバッド王の名もと捕らえてみせましょう。これも全ては国の為。ああ仕事が増えていくばかりです。

「…別に好きに呼んでくれて構いませんよなまえさん」
「その爽やかな笑みが逆にこわい」
「ふふふ」
「こわい…」

しかし初めに感じた違和感は拭えない。あの直感的な感覚は何だったんだろう。

…。まあ考えたって答えは出ませんから今はよしとしましょうか。ここは平和なシンドリア王国、まずは貴方を保護致しましょう。


しかし、なまえさん。もしもこの国に、シンドバッドに何か害を成すというのならそのときは容赦しませんよ。



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