彼女は自身をなまえと名乗った。

俺が発見したとき彼女はひとりぽつんと宙に浮いていた。あの時の、まるで迷い子のように縮こまった姿がやけに目に焼き付いて離れない。何をしているのかと投げかけても自身も解らないと首を横に振るだけ。少しだけ気になると言えば汚い言葉も出てくるし態度も悪くて、…まあ少しだけ馬鹿だということ。それにジョシコウセイ?だのケイサツ?だの、だったかな。いくつか私には意味の解らない言葉を使っているときがある。しかしそれらすべての言動には意味があるはずだ。今ならわかる。彼女はただ自分自身を守る為に強がっているだけだと。

食事をしたときの彼女は貪欲だった。出された料理に目を見開き、困惑した表情をしながらも口に運べばペろりと平らげた。…今まで満足に食事が出来ていなかったんだろう。私が導き出した答え、恐らく彼女は誰かに監禁されていた。もしくは奴隷か。豚小屋といっていたそこから逃げだし王宮へと逃げ込んでしまったのだと推測する。王宮で誰にも見つからなかったのは彼女の不思議な力が発動していたからか。なまえ君に纏う少し感じの違うそれをヤムライハに見てもらうことにしよう。


「あの…私は帰りたいんです…」
「いや、ゆっくりしていきなさい。今なまえ君の部屋を用意するよ」
「なん…だと…」

絶望した顔でこちらを見るなまえ君。しきりに帰りたいと口にする彼女は異常にも見える。あまり考えたくはないが帰るよう洗脳されているのかもしれない。ならば尚更、君を帰すわけにはいかないんだ。

このシンドリア王国にそのような輩がいるとは…。なまえ君のような子がまだ豚小屋と呼ばれる場所で泣いているかもしれないし、国民も危険にさらされる。なまえ君に聞けば一番早いが、思い起こさせるのも可哀相だ。情報はこちらで集めればなんとかなるだろう。なるべくはやく奴らを引っ捕らえなければならないな。我が国民の為にも。彼女の為にも。



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