とある日。トイレからの帰り道、ふらふらとした足どりで部屋へ戻ろうとしてるとマスルールさんが前方に見えた。まっすぐの廊下、壁を這うように隅っこを歩く私と真ん中を堂々と歩くマスルールさん。人と対面するのが気怠くて気づかれないようにしてみた。絶対無理だろうなと内心で思いながらも気配を消し、…てなんてできるわけないじゃない。完全に目が合ってるよね。無視とかできないねこれ。
こんな人見知りな私だけど実は、さ。目標があるんだ。本当のいつかだけれど私、マスルールさんのことを親しくなったらマーくんっていうんだ。はじめはまだハードルが高いからマーさん呼びからなんだけどいつかはマーくんと呼ぶよ。別に深い意味はないけどそんな理想がある。ほんと深い意味なんて一切ないけど。とにもかくにも私の未来計画は着々と進行中なのです。

「こ、こんにちはマーさん」
「マスルールっす」
「…あ、はい。えっとマーさんですよね」
「マスルールっす」
「……。マー…、マスルールさんで合ってますよね?」
「うす」

…いや。うん。しってるよ?貴方の名前はちゃんと覚えてるんだよ?あれかな「コイツまた人の名前忘れてやがるぜー」とかそう思われてんのかな。だめじゃん。この先マスルールさんのことをマーくんとちゃんと言えるの?どうなの?略式すら否定されてるじゃんね。これ未来計画おわったんじゃない?いやはじまってすらいなかったのかも。記憶力のなさがこの事態を招いたのか…!くっ

それでもめげない私は何度かさりげなくマーさんと呼んでみるもその度にマスルールさんからマスルールですと修正された。泣きたい。仲良しのつもりだった友人にウザがられ馴れ馴れしいと距離を置かれた気分。そんな仲でもないのに気安くしないでってか?なにそれせつない。


「あの、森は好きっすか?」
「え?…あ、はい。そうなんじゃないですかね…」

理想なんてただの幻想だった。もうどうでもよくなったこの気持ちが気の抜けた言葉になってあらわれていたように思う。…で?なんだ?マスルールさん今、森っていったっけ?ぶっちゃけ好きでも嫌いでもないよね。そんなことより私の心はスカスカだよ。そっちの方が問題だ。あだ名言えないとかもしかしたら私、マスルールさんに嫌われてるんじゃないかな。いやまだあきらめちゃだめだ。そうとは言われてないじゃない。


「あの。いきなりどうかしましたか」
「よかったら連れていきますけど」
「べ、別にいいです」

ほんといきなりすぎやしないですかね。反射的に拒否しちゃいました。こんなに目標があるのに何してくれてんの私の口。でもなんで誘われたのかな。まだ嫌われてないってことでいいんでしょうか。それならまだ救いようがあるけど。……うわああ…なんか頭上から無言の圧力を感じる。チラッとマスルールさんの様子を伺えば無表情のマスルールさんだ。この人何考えてるのかわかったもんじゃない。嫌われてるのかもわからない。

「部屋にばっかいるとよくないっす」
「…す、すみません」
「だから連れていきます」
「は?」

なんか、今、完全にノーは却下です的なこといいました?完全に連れていくと宣言しました??突如、グンと持ち上げられる体。あれ?足が着かないよ。ほんとなんで?なんで私マスルールさんに持ち上げられているんでしょうかね!?

「マスルールさんこれは一体…!?」
「舌、噛みますよ」
「ぎゃあっ」

これなんて罰ゲームかな?

米俵みたいに担がれて一体どこに連れ、…話の流れ的には森だろうとは推測できるけど!でもダメだよね!米俵は!気持ち悪い吐きそうだよマスルールさんん!!



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