じっと目を閉じて、開いて。息を吸って、吐いて。それを幾度となく繰り返しても変わらない景色にただひとり「わーお」と歓声もどきを上げてみた。…というか勝手に出たともいう。これはなまえにとって無理もない反応のはずだ。だって、いつの間にかへんてこな建物の上に浮いてた。まさしく人間を超越した瞬間、…なのか?いやいやこれはきっと上手く出来た夢の中だね。間違いないね。

「お嬢さん、こんなところで何をしてるんだい?」

はははと自己完結をして満足げにほくそ笑んでいるときだった。すぐ傍からその声が聞こえてきたのは。飛んでると思わしきなまえ、と、同じ位置にいるおにいさんがいた。……はて?お嬢さんとは自分のことだろうか?その疑問になまえが左右を見渡し後ろを振り返っても自分とおにいさん以外の誰もいなかった。そんななまえを見てか「君のことだよ」とおにいさんは言った。

「まずお嬢さんの名前を聞いてもいいかな?私はシンというんだが」

しん、と名乗るおにいさんが一歩また一歩と自分の元へ歩いてくる。それに伴い優しい声と笑みを醸すおにいさんの顔がよく見えてきたと思えば…ものすごいイケメンだった。なにこのイケメンフラグ

「どっ…どうも。イケメンなおにいさん。なんか…こう、す、素敵ですね」
「…え?…それは、ありがとう」
「い、いえ…」

イケメンすぎて思わず口から漏れたのは致し方ない。ウワアアアやってしまったと心の中で叫び散らかしながら視線をそらすことしかできない。イケメンを直視するなんてなまえにはできない。夢ならはやく醒めてくださいと願うしかない。もうやだなにこの夢。

「君はそこで何を――」
「あの、つかぬ事をお聞きしますがおにいさんはどうして浮いてるんですか?なんでですかね?」
「え?まあ、そうだね。それをいうなら君も浮いているけど」
「あ、そっか。…なんでだろ?」
「…本当に君は何者なんだい」
「何者って…しがない女子高生?」
「じょしこう、せい…?」
「え?」
「…」

なんか、不思議だ。今の自分の言葉で首を傾けるなんて。健全な男性だったならハスハスするはずなのに。この人、ちょっとおかしいのかもしれない。

「とにかく一度来てくれるかな」
「………えっ」

行くべきか行かざるべきか。知らない人にはついて行っちゃいけないと昔はよく言われたような。危ない?これ危ない?

悶々と悩み込むなまえに、おにいさんが手を伸ばしたその時。


パチンと何かが割れる音がした。


「―――うわ」
「あ、」

さっきとはまた違う感覚。地面へと引き込まれる、重力。おいおい嘘だろうジョニー!自分でも一体誰かもわからない名前を呼んでる最中、気持ち悪い浮遊感がなまえを襲う。むしろ浮遊感どころじゃない。これはただの落下だ。

「―――、」

地面がどんどんと近くなる。これはヤバイかもしれないと思わざるを得なかった。焦りが込み上げると同時に頭の中が真っ白になる。どうなっているんだ死ぬのか私は、と意識が朦朧とするなかそれを止めてくれたのは、――さっきの、おにい、さん…だったと思うんだけれど。どうしよう。確認するよりも意識がプツンと途切れた方がはやかった。



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