どうしてこうなった。…そんなこと私にもわからない。私の目の前で二人が向き合いピリピリとした雰囲気を纏ってる。猿と蟹だ。猿蟹合戦だ。一体どうしてこんなことになったのか

「なんでなまえちゃん泣いてたのよ」
「知らねーよ勝手に泣き出したんだよ」

原因は私のようだ。



シャルルカンとなまえが部屋に戻ろうと歩いてた途中にヤムライハが偶然通りかかったのがことの始まりだ。ヤムライハ自身二人と鉢合わせることも特に気にしていなかったのに、二人の息の合ったおかしな言動に不信感…いや不快感すら抱いていた。怪しさしかない。そこで注意深く観察して見つけたのがなまえの赤らんだ目だった。間違いない。なまえは泣いていたに違いない。それをシャルルカンに問い詰めればギクリと肩を震わせたのだ。

「泣き出したぁ?つまりアンタと一緒のときに泣いたってことかしら?」
「…そりゃ、そうだけどよ。俺だってよくわかんねーんだよ」

問い詰める女の人はどんなに怖いことか。話の中心にいるはずのなまえはこの流れを静観する。けど、シャルルカンがチラチラこちらの様子を伺う姿を見たらなんだかいてもたってもいられなくなった。これは復讐のチャンスではないか、と。

「シャルさんが私の顔を見て気持ち悪いって言ったんです酷いですよね」
「そんなことまだ覚えてたのかよ!?」

そんなことだと?出会い頭の冷酷なシャルさんの言葉は本当に酷いと思う。誰もいないと思って笑ってただけなのにあの仕打ちはない。見て見ぬふりでもよかったじゃないか。あんまりだ。そんな思いを全面に出すべくヤムさんの傍に駆け寄っておいた。もちろん私ってば根に持つタイプですハイ

「昔っからデリカシーってものがないのね!だからアンタは女の子の趣味がわからないのよ!」
「うるせー!それとは関係ないだろ!」

二人は大変仲がよろしいようで。喧嘩する意味であった私の存在すらなくなって、待ちぼうけをくらってる。暇。持て余したこの時間が非常に勿体なく感じ部屋に戻ろうと思ったりしたけど後で怒られそうな気がしたからやめておく。帰り道がわからないとかそんなことじゃないよ。今中庭の近くにいるし、ここからなら帰れるよ。あ、中庭といえば…持ってた書物置きっぱなしだったじゃん。回収しなきゃこっちでも怒られるじゃん。それは困る。叱られるとすぐ挫折しちゃうからね。
二人に気づかれないよう歩き出したとき、向かいから誰か来た。シシシ、シンサマさんだ!それとマーさんとジャーさんもいる!!嫌な予感1000パーセント!やっぱりすぐ戻ってればよかった!

「やあなまえ君」
「ど、どうも。……あの、つかぬ事をお聞きしますが…まさかその手に持ってる本って…」
「ああ、これかい?私が君に預けた本だよね」
「ヒイ!すみません!!今とりにいこうとしてたところでした!中庭に、」
「そうそう。中庭にあったよ」

忘れちゃダメじゃないかと爽やかに笑うシンサマさん。私の頭を二回ほどぽんぽんと叩き本を渡してくれた。この優しさがこわい。あとで裏来いよとか言われないですか大丈夫なんですかね。

「どうだいこの本は」
「すみませんまだ読んでいなくて」
「まだ?」
「す、すみません…これから読むつもりでして…」
「そうか。シリーズもので22巻程あるからゆっくり読むといい」
「に、22巻…だと…」

なにそれ有り得ない。長編シリーズじゃないか。そんな長い本読んだことないよ。マンガならあるけど本とはワケが違う。読み切る自信がなくなったよチクショウ……元々自信もないけど。

シンドバッドは呆然と立ち尽くすなまえを疑問に感じながら視線を外し、彼女の後ろにいた二人を見てため息をはいた。



「それで?お前達はどうした」

二人はそこでやっとシンドバッド一行に気づいたが、取っ組み合いをしたままどちらも引かない。

「シャルルカンがなまえちゃんを泣かしたんです!!」
「だーかーらー!原因は知らないんだって言ってるだろ!」

それだけ言ったらまた取っ組み合い。二人がガミガミ言い合ってるなか視線を戻したシンサマさんと目が合ってどうしようもなかった。おいそこの二人いい加減喧嘩やめろ。私の為にガミガミ言い合ってたんなら私を助けてマジ助けて。


「なまえ君泣いたのか」
「…」

どうしよう。シンサマさんに説明しづらいのですが。なんていうの?この人と話すといろいろ噛み合わないこと多いからあまり言葉を交わすと危険なんだよね。どうしようねこの状況。
それにシンサマさんの後ろにはお約束みたいにジャーさんが控えていてこわい。逃げられない。オワタこれオワタ。


ただひたすらどう逃げ切ろうか考えている。…こんなときに限ってなにも思い浮かばない。そんな私を見てシンサマさんは何を思ったのか。
脇に手を当て持ち上げてきたのだ。私を。子供のように…!

「や、やめてください……っやめ、やめろおおおっ」
「シン!なまえさんがいつにも増して死んだ目をしていますよ!」
「そんなはずないさ!大丈夫だっ!ほらなまえ君、たかいたかーい!」
「どうみても大丈夫じゃない!誰か、誰か通訳を彼に寄越してください!」

私が君達より小さいからか!?ガチ泣きしそう!今なら喜んで泣いてやるよ!笑えないよこの状況笑えない!
何を考えてこの結論に至ったのか彼に小一時間問い詰めたい。…嘘です問い詰めなくていいからはやく解放してください


もう消滅したい



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