彼らは本当に宴が好きだ。
チョッパーの仲間入りを祝うみんなは楽しくどんちゃん騒ぎを続けている。サンジの作った美味しい料理に舌鼓しつつ、冬島の夜桜に見送られながらの宴はなんといきなことか。
「あっ」
わたしの隣でチョッパーが小さく声を出した。それを聞き取ったわたしと、同じく反対側に座っていたナミの耳にも届いたようだ。「どうしたの」と優しく問うナミはずいぶんと顔色が良くなった。これもチョッパーとくれはさんのおかげである。
「急いで来たから医療道具ぜんぶ置いてきた」
「あら、それならソリにあったわよ?」
「え!?」
「その反応ってことはチョッパーが準備したんじゃないんだねぇ」
ナミの言葉にチョッパーは驚いた。そんな彼に彼女はくすりと笑って青いリュックを差し出した。
「何もかもお見通しね」
じーんと心打たれたチョッパーがあまりにも可愛くて無意識に頭を撫でていた。するとシロちゃんが嫉妬したのかジトッとした目を向けながら尻尾をふりふり動かすので空いてる手で撫でておいた。やばいぞ両手に花とはこのことか。
「それにしても医者がいるのは心強いよね」
「そうね。今回の私みたいにいつ不測の事態に陥るかわからないもの。頼りにしてるわよー」
「…た、頼りにされたって嬉しくねーぞ!」
嬉しそうにしながらコノヤローが!と言われてもただただ可愛い。一家に一台は欲しいな。
「医者ぁ?」
そんなわたし達の会話に疑問を投げ掛けるのはルフィ。首を傾げ何の事だと訴える表情にナミがため息をはく。
「あんた…まさか知らないでチョッパーを仲間にしたの?」
「え!チョッパーお前医者なのか!?」
「ナミさんそれ本当なのか?」
「…君達を治療したのはチョッパーでもあるんだよ」
ルフィのそばでサンジもまた同様に驚いていた。付け足すようにお世話になったことを告げても首を傾げるばかりであまり効果がないようだ。
「一体チョッパーを何だと思って勧誘したのよ」
「おもしろトナカイ」
「非常食」
「…!!!」
本人を目の前に堂々と言ってのける。そんな君達がコワイですほんと。
「きゅー」
「ん?どうしたんだいシロちゃん」
わたしの袖を引っ張りうずうずし始めていたシロちゃん。
「油揚げが食べたいって言ってるぞ」
わたしの問いに答えたのはチョッパーだ。どうやら通訳をしてくれたみたい。シロちゃんの好物はまだ彼は知らないはずだからちゃんと声が聞こえてるんだろう。
「カルーやシロちゃんの言葉もチョッパーはわかるんだね」
「うん俺もともとが動物だから」
先ほどもチョッパーはカルーの言葉を理解できていたし、クエーだの何だの人間ではわからないものを通訳してもらえるのは大変有り難いな。
「でもシロは不思議だな。動物なのにニオイがなにもしないんだ」
こてんと首を傾げシロちゃんを見つめるチョッパーは不思議そうに呟いた。彼の嗅覚が感じとれないのだからそれほど無臭なんだろうね。
未だそわそわしてるシロちゃんに、それならサンジのところへ行っておいでーと促せば待ってましたと言わんばかりに軽やかに走り出す。暫くして料理の追加分をキッチンで仕込んでいたサンジの驚いた声がしたけど大丈夫だろうか?…いや、きっと大丈夫だろう。
ルフィとウソップが割り箸を顔にくっつけ遊んでいる。そんな二人に誘われチョッパーもそれを真似して笑う。少しぎこちなくも馴染み初めている姿になんだかホッとした。見つめすぎたのかチョッパーがこちらをふりむいてしまいちょっと焦ったのはナイショだ。
「楽しいかい?」
焦りを隠すように問う言葉はくれはさんから彼を頼まれた責任としても、聞いておきたいことだった。
「うん!楽しいぞ!」
「それはよかった」
なまえは楽しか?と返され、思わずきょとんとしてしまったけれど。わたしは笑って頷いた。
「わたしも楽しいよ」