ルフィとサンジが病み上がりなのに再びチョッパーを追いかけては、くれはさんが騒ぐ二人に痺れを切らし包丁を両手に携え参戦したりととても慌ただしくなる。その後ルフィとサンジをまいたらしいチョッパーが来たと思えばナミがさりげなくチョッパーを船へ勧誘し彼を再び動揺させたり、その間にまた二人に見つかったチョッパーが逃げる。そして最後にくれはさんが戻ってきてイスへと座った。この間そんなに時間経ってません。

「感心しないねぇ小娘…私のいない間にトナカイを誘惑かい?」
「あら?男を口説くのに許可が必要なの?」
「ヒーッヒ。いや、持っていきたきゃ持ってきな」

ナミの言葉に愉快に笑うくれはさん。二人とも、なぜか生き生きしてるのは気のせいだろうか?女の子すごい。

もしもチョッパーが船に乗るとしたらすぐにでも出発できるだろう。船に乗りながらナミの治療ができるのも、これから先のことを考えても船医は重要な役割だし大きなメリットがある。
だけれどチョッパーを連れていくには彼の心を癒せることが出来たならば、の話。青い鼻で生まれ悪魔の実を食べてしまったトナカイにも人間にもなりきれず、心の傷を負ってしまったという彼の半生。――何処の場所でもこんなことはそれなりにあるだろう。中身に多少の違いはあるけど珍しい話ではない。他人事に思えないのは彼とわたしが少し似ているからだろうか。



「ドクトリーヌ!」

ルフィとサンジをまいたらしいトナカイの姿で現れたチョッパーがくれはさんを呼んだ。息を整えることもせず言葉を発する彼は妙に慌だたしく、その名前を聞いたくれはさんの表情が変わる。


「ワポルが戻ってきた…!」

わぽる?

チョッパーが言ったその人物が誰なのか、まったくわからないわたしとナミは互いに首を傾げた。
くれはさんがナミに「ベッドから出るな」と告げたのち二人は部屋をあとにする。そのついでに「なまえは見張ってるんだよ」なんて言われてしまった。信用ないのねとナミが呟くのも無理はない。あれだけ急いでいると言ったから尚更なんだろうね。


「ねえなまえ」

とたんに静かになった一室、ベッドのすぐ横のイスに腰掛けるとナミがわたしを呼んだ。

「アンタはどう?本当に仲間になる気はないの?」
「…どうしたの急に」
「急じゃないわよ。先延ばしにしてるくらいなのよ?」

不満そうにナミがわたしを見つめる。その視線にいたたまれずわたしは彼女を見返すことが出来ない。

「みんなはとても優しいよね」
「アンタもね。心配してくれて本当に感謝してるのよ」
「そりゃあ、まあ、うん。具合悪そうな子を放っておくなんて誰だってできないよ。それにみんなが誘ってくれるのは素直に嬉しいんだ。でもね仲間ってさ、わたしにとっては凄くあたたかいもので手の届かないものでもあるんだよ」

自分では掴むことが難しくて。だから見てるだけでよかった。わたしにはきっと無縁のものであると言い聞かせた。それが里にいたときのこと。

「彼と少し、似てる部分があるんだろうね」

わたしはあそこで異端と云われた。妖怪の類だろうと里の者は遠ざかった。思い出すと少し悲しくなる、昔の話。


「人に、あまり好かれないんだ」

怖い、と。

故郷にいた里の者達はわたしを畏れ怖がってしまった。わたしを見てはくれなかった。だけど彼らが悪いわけじゃないのはわかっているからどうしようもなくて。仕方ないのだと割り切ることしかできなくて。

少し長めに伸びた前髪の隙間から彼女を見る。もしも嫌うなら、気味が悪いと思うのなら、今言ってほしい。突き放してくれるのならまだ傷も浅く、おしまいにできるのだから。

「ナミも気づいてると思う。わたしの、目……赤いだろう?それがよく思われていなくて、その…と、友達が出来なかったんだ」

だからこそわたしには家族がいれば十分だった。父上と母上に兄弟さえいてくれれば幸せで、友達も必要ないとさえ思ったのに。父上はそれを許さなかった。ナカにいるから駄目なのだソトへ出れば色など誰も気にしなくなる、と。実際にそのとおりだった。ソトはたくさんの色で溢れていた。わたしの世界は広かり確かに何かが変わったと思う。



「だからね」

そんなわたしに対して、呆れたと言わんばかりの声とため息ひとつ。

「なまえがあまり目を合わせなかったのはそのせいね」

目が合ったあとすぐに目線を伏せてるのよ知ってた?…そう言われてはじめて気づいた。

「わたし、そんなことしてた?」
「まあね。それにその自信のなさがその前髪の現れかしら?」

う、と言葉に詰まる。

ナミの言葉は的確なものだ。
ソトを見たのに、それなのに未だ溶け込めないのはわたしが弱いから。色を恐れているのはいつも自分自身だった。知らなかったわけじゃ、ない。


「少なくとも私達の船にそれを気にする奴はいないし、せっかく綺麗な色してるんだから見せなさいよ」

ナミの手がわたしの頭に優しく触れる。やっぱり彼女は優しい。彼らはまるで太陽のようにあたたかい。


「ナミ」
「ん?」

名前を呼べば拒まず応えてくれる。それがただ嬉しい。

「ありがとう、なんだか言ってすっきりしたよ」
「そう。じゃあすっきりのついでに前髪もすっきりしちゃいましょう」
「エッ」
「イメチェンよイメチェン」

いつの間にかハサミを片手に。話題をそらそうと寝てなきゃ駄目だよと言おうと今更よ、と返され他に何か逃げる手段がないかと頭を唸らせる。が、ナミはもうやる気満々でにこりと笑うその笑顔にわたしが敵うわけがない。


前髪にハサミが入ったのはあっという間だ。



「し、しし視界が眩しい…!スースーする!!」

ただ前を見るだけでは完全に見えなかったものがダイレクトに見える。ナミの顔が前髪に邪魔されることもない。

「ふふ!思ったとおりね!」

わたしを見て満足げに微笑んだナミ。


「?、…?」
「顔隠すなんて勿体ないってことよ」


堂々としてなさい。と。


まるで母上みたいだ。なんて無意識に呟いたらバスンと頭を叩かれた。こんな大きな子供なんて嫌よ、と。だけど弟ならいいかもしれないわねとナミは笑った。いやいやわたしは兄の方がいいんだけどなあ。そんな朗らかな会話に自然と口角が緩む。少し、ほんの少しだけこの心の底に隠した気弱な部分に光が射した気がした。





◎言うつもりなかったけどチョッパーの話に感化されて話しちゃった的な



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