具合が悪いと言ってナミが倒れた。この船に医術を持った人はいなくて。もちろんわたしも医術の知識は持っていない。病気になったことがないとかぬかすルフィ達より多少の心得はあるとは思うけれどそんなの何の意味もないだろう。だってナミの額を触ると酷く熱くただの発熱ではないことだけはわかったから。ビビと顔を見合わせやはりこの熱はただ事ではないという認識になった。

一刻も早く医者に見せなければいけないとビビが言う。なのにナミはアラバスタへ急げと言う。誰もがその言葉を拒む中、ナミが隠していた新聞をビビに見せ、急がなければいけない理由を告げる。その内容はアラバスタの国内情勢を書いた記事だ。国王軍が解放軍に寝返ったことにより戦力が変化したこと。解放軍の人数が国王軍を超え、いつ対立してもおかしくなく緊迫した状況。
アラバスタに急ぐか、ナミの病気を治すか。――どちらを先にするかの二つの選択を迫られる。そしてビビは選択した。ナミを治してからアラバスタへ向かう、と。それがこの船が出せるの最高速度。ビビの言葉を聞いたルフィ達はもちろんだと頷いた。


「なまえちゃんどうしたの?眉間にシワが寄ってるわ」
「え?あ、ううん。ナミが苦しそうだし、…島、はやく見つけなきゃね」
「ええ、なるべくはやく医者を探さなきゃ。だからなまえちゃんあまりそんな顔しちゃ駄目よ?」
「ご、ごめん。気をつける」

ビビは凄い。きっと辛いだろうに暗い顔ひとつせず笑顔を振り撒くのだから。わたしなんて不安な心が表情に出るほどあからさまなのに。





真夜中――
ナミの静かな寝息を確認して外へ出た。普通、女部屋には立入禁止という決まりなのだが事態も事態である。特別に出入りが出来るからみんなで協力して看病を続けてる。ナミの容態を確認するのは専らビビとわたしであり、何度もナミの額においた濡らしたタオルを変える。一向に熱はおさまらずそれを変える度に、ナミの苦しそうな表情を見る度に不安になる。
寝静まるみんなに毛布を被せたあと、ずっと甲板にいて星を見上げてた。そうしてどのくらい時間が過ぎていたかはわからない。昼間の騒ぎ声もカモメの声もなく、ちいさな波の音だけが聞こえる。そんな中、コツコツとこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。足音からしてサンジで間違いない。サンジはわたしの隣まで来るとなんの迷いもなく腰を降ろして一度タバコの煙をふかした。

「どうした」

そのときのサンジの声がやけに心地良かったのは秘め事として。そんな風に言われたらつい言いたくなってしまうじゃないか。しかし他人に告げるほどそれは大それたことでもないからわたしは曖昧に返すのだ。

「んー」
「ンなとこにいたら風邪引くぞ」
「だよねー」
「いい加減部屋に戻れ」
「おー」
「…ハァ。ったくお前は」

呆れた声が横から聞こえる。まさかここまで心配してくれてるとは…いやはや申し訳ないね。

「ほら言ってみろ」
「いだ…」

コツンと頭を叩かれむすりと顔に出してみてもサンジは何食わぬ顔。そして徐に、やっとこっち向いたな、と言われしまい少し間を開けてから今度は砕けた笑みを零した。


「なんか、ビビのことを考えると私は浅はかだなぁって」

そりゃあわたしだって強くなりたいから旅をしているけど。それでも、彼女にくらべたら背負うモノは少ない。それなのに気丈な彼女は、ナミも国も大丈夫だと健気に笑う。

「ンなこと人それぞれだろ」
「ん」

わかってはいるけど。大きな負担がかかっているはずなのにどうしてビビは落ち着いていられるんだろう。
きっと彼女は必要ないというけれど、ビビの為にわたしは何ができるんだろうか。なにかしてあげたい。そう思ってしまう。


「テメェが暗くなってどうすんだ。美味い飯食って世話になってればいい。ビビちゃんを心配させんなよ」
「…ビビ、心配してた?」
「当たり前だろ」

ああそうか。わたしが不安になるとビビはもっと不安になる。あの異常なナミの熱に、病気を知らないというルフィ達とはまた違った危機感を持っているからこそ不安を煽らせてはいけない。あの笑顔を守る為にわたしは彼女を安心させてあげるんだ。そう決意すると、もやもやした気持ちがすとんと落ち着いた。

「ありがとうサンジ、よくわからないけどなんか分かった気がする」

にっと笑えばサンジが頭をわしわしと撫でた。

「いいってことよ。さ、体冷えたろ?あったかいスープあるぜ」
「まじで!いくいく!」

そして立ち上がると背を向けて歩きだす。それにつられてサンジのあとを追う。

「まあビビちゃんを助けるのは俺だ。なんたってナイトだからな」
「わあ格好良い。ねえねえナイトさん、わたしのことも助けてくれるのかな?」
「ばーか俺はレディ限定だ」

まあ、聞くまでもなかったか。予想通りな返答がきてサンジらしいと笑った。

「でもまァ気が向いたら助けてやるよ」

お?予想外な言葉に思わず足が止まる。何の気なしにサンジは言ったかも知れないが、ただ嬉しいという感情が込み上げたゆえ遠慮なく背中に抱きついておいた。



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