空をぼんやりと眺める。カモメさん達が気持ちよさそうに跳んでる。あれ美味いかなー?…なんて考えてると涎が口の端から出そうになったからグッと堪え、我慢だ我慢と自分に言い聞かせた。だってこの船のサンジの飯はとびっきり美味い。だからちゃんとお腹を空かせてれば美味しい飯をたらふく食べれる。なのにルフィの胃袋は我慢出来ないらしく甲板で釣りをしていた。そんなに食べたいのなら冷蔵庫のモノ食べればいいのにって言ったけどどうやら駄目らしい。サンジが許してくれないんだって。こっそり食べたのがバレたりでもしたら大変な制裁が待ってるのだとか。
ルフィに釣りを誘われたけど、わたしなら飯の時間まで我慢できるからやめておいた。ルフィみたいに胃袋がブラックホールじゃないからね。宴のときのルフィはほんとに凄かったなー。


「……?」

ふと背に感じる気配。なんてことはない。これは間違いなくゾロだ。顔だけ振り返ればそこには予想通り、彼が立っている。

「手合わせをしねェか?」

腰に携える三本の刀に手を置きながらゾロが言った。と…突然の申し出にポカンとすることしかできない。

「その刀は飾りじゃねえだろ」
「まあ、うん」

刀、とはわたしの背中に差した武器のことだろう。これに鍔はなく本来の刀の長さより幾分か短い。これは忍刀と呼ばれる代物だ。

「剣士同士なら勝負してみたくなるのが普通だろ」
「残念。わたしは剣士ではないよ」

首を竦めれば「へェ」とどことなく残念そうな声が返ってきた。ああ、よかった。諦めてくれたんだ、なんてホッと一息ついて視線を海に戻した。しかし、

「――でもよ、それは使えんだろ?」

チャキ、耳に入ってきた音。それをとらえたと同時に感じるもの。嫌な予感とも重なって反射的にその場を飛びのいた。その瞬間に空を斬る、刀。――ちょ。何してんのこの人!!?


「うおあ!?」

これは酷い!ついさっきわたしが居た場所に刀が刺さってる!なにこれ有り得ない!!ヒイー!

「なかなか良い反射神経だな」
「ば!ばか!ケガしたらどうすんの!」
「大丈夫だ。お前なら避けられると思ったぜ」
「何を根拠に!?」

悪ィな、なんて言うけれどなぜかニヒルな笑みを浮かべてる。いやいや絶対反省もしてないね。何をもって自信ありげに言ったのかは知らないけど過剰な評価はやめてほしいよ。わたしはフツーの人間なんだからね!後ろに目はないぞ!

「リトルガーデンでの身のこなし方を見てりゃわかるさ」
「ええ…っ」

あれだけで理解したのかスゲェ。…じゃなくて判断材料が乏しすぎる。それでもし切られちゃったりでもしたら大変だよ。わたし無駄死になんてしたくないよ!

「安心しろ。刃は逆にしてあった」
「そういう問題じゃないよ」

怒らなかったわたしは偉いと思う。いや、寧ろ考えが破天荒すぎて逆に冷静につっこめたといった方がいいのか。

「やっぱり身のこなしが軽ィな」
「そ、そうかな?へへっ」

褒められてるみたいでなんか気恥ずかしいな。頭の後ろに手をあて照れてればゾロから、うわあ…みたいな残念そうな表情を向けられた。失敬な。


「今わたしはただの旅人だけど、剣士とかそういう役職をいうのなら、わたしの一族は忍者と呼ばれていたよ」
「ほお…ニンジャ、か」

勝つことより逃げること。それが第一の役目。だから素早さを褒められるのは誉れだ。…まあそれは昔の話だけれどね。
だけど今この足は十分な役目を果たしてる。わたしは何度もこの速さで生きながらえてるはずだ。

「やっぱ手合わせしようぜ。ウズウズしてきた」
「ば、ばか!やらないよばかあ!!」

怖ェよ!怖ェ!と逃げ回るわたしを追いかけるゾロ。その表情はどこか楽しそうだ。…いや、わたしが逃げるから追いかける側は楽しいよね。そりゃそうだよね。わたしが獲物みたいなもんだもんね。

「――ッ、」

攻防の末、なんとか、本当になんとかギリギリのところをかわして、屈んだ。頭上には踏み込んだゾロの顎が見える。しめた!両手を伸ばしてゾロの首を掴み背を向ける。踏み込まれた動力を利用しそのまま一本背負いを決め込もうとした、その時…

「そぉぃ…!??」
「あんた達いい加減にしなさいよ!」

そんな声が聞こえたと同時、予想外なところから圧がかかる。それはゾロも一緒で何かによって吹き飛ばされた。――ナ、ナミだ!!両拳を前に出してナミがそこにいた。ヒィイイ怖い!超怖いよ!


「おいなまえ!ゾロ!船が壊れたらどうすんだ!」
「大丈夫だ。穴が空いただけだからな」
「大丈夫じゃねーぞそれ!!」

ナミだけじゃなくウソップもカンカンだ。やっべーいつの間に見てたんだー!つか二人だけじゃないし!なんかギャラリーできてるし!
この船で戦おうとか暴れようとか思ってたわけじゃない。なんとか誤解を晴らそうとするけれど時既に遅し、…みたいで。

「ナ、ナミ!違うんだ!わたしは巻き込まれただけだー!」
「問答無用!」
「あぎゃあああ!」

この時をもちましてわたしはなるべくナミ様には逆らわないことを心に決めました。それほど彼女から振りかざされる拳はとても強力だったのです、まる。



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