碇を上げてメリー号が川を進む。鬱蒼と生い茂るジャングルを抜け広い海が見えたとき、川の両側にドリーさんとブロギーさんが出迎えてくれていた。二人は愛用の武器を手にこの先の海を見据えている。
「人間達が次の島に行けなかった理由がこの先にある」
「何が起きようとまっすぐ進め」
声を出したかと思えば何か解らぬ意味深な言葉。わたしが滞在していたなかでこの先の海に進む人がいなかったから二人の言う理由をしらない。だからルフィ達がどういう意味かとわたしに聞くもみんなと同じように首を傾げるしかなかった。
「わかった」
それでもルフィは頷いた。何が起ころうとも必ずまっすぐ進むと。
リトルガーデンから出て少し進んだあと、突然水面が騒がしくなった。メリー号の先で海を押し上げるように何かが現れる。海面から現れたのは巨大な金魚だ。うーわーなんだこれ!超デカイ!
「出たな島喰い」
「道を開けてもらうぞ。エルバフの名にかけて」
二人はそれを島喰いといい、懐かしそうにかつての冒険に思いを馳せた。島をも飲み込むその大きさと、消化したのちに生まれる島と見間違えるほどの巨大なフン。
その金魚が、今、メリー号を飲み込もうと大きな口を開く。…え、まじ?まっすぐ進むってコイツに食われる前提なの?
「まっすぐ…進む…っ」
「ああそうだ!まっすぐだ!」
大きな口をあけて待つそれを見ながらもルフィとウソップは迷わず応えた。まっすぐ進む…すなわち巨大な金魚に向かっているということ。そこで彼らの言ったことを信じる、ということが出来るのがどんなに凄いことか。ドリーさんとブロギーさんの傍に長く居たのはわたしだというのに。…わたしはバカだな。二人の姿に、少し揺らいでしまった自分の心を恥じるしかなかった。
バクリと飲み込まれ真っ暗巨大金魚の口の中、
「まっすぐだ!」
「まっすぐ!」
「ま、まっすぐ進めー!」
そう、二人はまっすぐと言ったんだ。なにも恐れることはないよね。ルフィとウソップに混じってわたしも叫んでみた。
「まっすぐ…ってもう食われてるわよ…」
不安に駆られるナミはルフィから貰っていたせんべいを食べつつ絶望してる。他のみんなは諦めたような顔をしてるというか既に後戻りできないからため息をついていた。
「大丈夫だよナミ!ドリーさんとブロギーさんは嘘を言わない」
わたしだってもう迷わない。彼らを信じて進むだけ。
暗闇で何も見えない。けど大丈夫。根拠のない自信なのに今は何も怖くないよ。
「「覇国!!」」
ズバッ
二人の声が聞こえたとき真っ暗だった視界は一瞬にしてなくなり、メリー号が金魚の中から抜け出した。
二人は巨大金魚を海ごと斬った。これにはもうさすがとしか言いようがない。
隣でウソップが興奮覚めやらぬ表情で彼ら二人の姿を目に焼き付けている。
「俺はいつかエルバフの戦士のように、勇敢なる海の戦士になる!」
「なんかそれカッコイイなウソップ!」
「だろ!」
お前は話がわかるな!とバシバシ背中を叩きニッと笑う。
「その意味がわからねェって言う奴もいるけどよ、それが俺の夢だ」
「大丈夫さ。その自信があれば何だって越えていけるよ」
素敵じゃないか。ドリーさんとブロギーさんのぶれない一本の槍。誇りをかけた闘い。戦士としての志。すべてがカッコイイんだ。
夢を語るウソップの顔はキラキラと輝いていているようだ。こうやって夢中になれるってすごい、…けど、何度もわたしの背中叩きすぎ!いい加減痛いぞこのやろー
「ウソップ!なまえ!いつか巨人のおっさん達の故郷へ行くぞ!」
「おう!必ずエルバフの村に!!」
わたしとウソップの間にルフィが割り込んできて楽しそうに言った。本当に、いつか行けたらいいな誇り高き戦士の村へ。二人と過ごしてこれた事をわたしは誇りに思うよ。