振り返りリトルガーデンを見渡した。数ヶ月…、いや半年は此処にいた。見慣れた空。見慣れた山。見慣れた空気。いつかはこの島を出るつもりでいたけれどこれが最後だと思うと名残惜しい。ドリーさんブロギーさんと離れなくちゃいけないんだ。さみしいなぁ。

「ドリーさんブロギーさん、いろいろとありがとう」
「ゲギャギャギャ!いいってことよ」
「ガババババ!気をつけて行けよ」
「うん。二人とも体は大切にね」

いつでも遊びに来いと彼らは気持ち良くわたしの背を押してくれる。聞き慣れた二人の笑い声に頬が緩むのが自分でもわかる。

二人にさよならは言わない。いってきますとまたね、その二つを言いながら二人に大きく手を振った。




「あのバカが悪かったな」
「…よくわからないけど苦労しているんだね」

ルフィ御一行のうしろをついていく途中で金髪で眉毛が印象的なサンジがわたしの隣を歩く。彼のくわえるタバコから煙が上がるのをぼんやり眺めながらわたしは小さく笑う。わたしを仲間にするだとか言い出した自由奔放なルフィを止められる人は誰ひとりとしていない。そんなことを理解できた気がする。…まあ、彼らを見ていてなんとなくでそう思っただけだけれども。

「そういや挨拶が遅れたが俺はサンジだ」
「わたしはなまえっていいます」

どうぞよろしく。そう言えばサンジはぽかんとした顔を見せる。

「お前本当に男か?」
「え?そうだよ」
「…いや、別に深い意味はねェんだが、見ての通りクソ野郎共は口が悪ィしギャーギャーうるせェのが当たり前だったからな」

いやサンジもなかなかの口の悪さですねとかまるでブーメランだ…とかは口に出して言わないっす。
サンジの言葉に生返事をしていればナミが割り込んできた。

「なまえは女の子みたいな男の子よね。一人称わたし、だし」
「いやいや。女の子みたいな、じゃなくてフツーに男だからね」
「別にいいじゃない。どっちでも。なまえは常識人っぽいから私はアンタが仲間になるのは賛成よ」
「ええっそこなの!?」

だって常識人がいないのよこの船には!なんて溜め息混じりに言ったナミは苦労人なんだろうね。そんなナミをまあまあと宥めるのはビビで、話の筋を理解していないルフィが二人を見て「どうしたナミ!悪いものでも食ったのかぁ?」と呑気に一言。すかさず「一番の原因はアンタなんだからね!」と拳を振りかざすナミ。こ、こわい…
――…て、視線をそらしている間にサンジとゾロが喧嘩を始めてるんだけど!いつの間に!なんなのこの人達!

あっけらかんと彼らを見続けることしかできなかったわたしの肩をウソップが叩く。彼らの行動に謝罪を述べてまったくあいつらはいつもこうだよ、と首を竦めた。

「まあお前も苦労するだろうが困ったことがあったら何でも俺に言えよ。なんたってこいつらを陰で支えてるのは俺なんだからな」
「おお!」
「この海にはな俺を慕う8千人の部下達がいるんだぜ」
「は、8千人!?ウソップすご――」
「どさくさに紛れて嘘を吹き込むんじゃないわよ!」
「ッブヘェ!!」

わたしが最後まで言う前にスパーンと後頭部をすっぱたかれるウソップ。…え?ええ?
ついにはわたしを残してぎゃあぎゃあと騒ぎ立つみんな。あーれー?どうすんのコレ。わたし放置?
ぽつーんと取り残されたのはどうやらわたしだけじゃなかったらしい。ビビと目が合うと彼女は緩く微笑んだ。わたしもそれに返すように「毎日こんな感じ?大変だねぇ」と言っておいた。

「みんなとても賑やかで凄くいい人達なのよ」
「そっか」
「だからなまえちゃんも、…あ、ご…ごめんなさいなまえさん。なんだか初めの癖が抜けなくて…」
「ならさ、無理にさん付けしなくていいよ!ちゃん付けだと仲良しみたいでわたしは嬉しいし!」

ビビが何度かわたしの名前を言ったとき、ちゃん付けで呼んでしまっているのが気になった。こだわりとかは特にないんだけどビビにちゃん付けで呼ばれるのはすごくフレンドリーな感じがしたから率先して勧めてみた。すると二、三度瞬きをしたあとに快く頷いてくれた。

「ええ、わかったわ。それならそのまま呼ばせてもらうわね。ふふっなまえちゃんならきっとみんなともすぐに馴染めるわ」

根拠はないけれどそんな気がするのとビビは微笑んだ。おおっなんだかとってもいいかんじ!
ぎゃあぎゃあとする中わたしは手を叩く。すると全員の動きがぴたりと止まり視線をこちらに向けてくれた。

「さーみんな。ビビの為に旅路を急ぐんだろう?わたしも君達の船を見たいんだ。はやくいこー」

そう言いながら彼らの背を押してわたしは笑う。



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