「政宗か」

視線を送らずともわかる声の主。
かつて伊達家の当主としてこの地を治めていた男。上に立ちその巨大な権力を握っていた男はまだ若いにも関わらず、それらを惜しむことなくすべてを自分に譲った。


「…父上」

かちりと視線を合わせる親子は顔を緩ませることなくきりっとした表情で互いを見つめていた。

ふと政宗が視野を広げ辺りを見渡せばその父上の隣にはなまえがいた。輝宗の隣で規則正しく胸を上下に揺らしすやすやと眠っているようだ。
そんな姿を見つけ嗚呼会いたくない奴を見つけてしまったと政宗が顔を歪めていれば「何を突っ立っておる。寄って行け」と輝宗が手招きをする。拒否など拒めないその声に政宗は彼の部屋へと足を踏み入れた。






「どうじゃ仲良くしておるか?」
「…」

誰が、とは聞かない。

聞かずともわかる。
そこにいるなまえのことだろう。輝宗は優しげな瞳をなまえに向け小さな頭をゆっくりとした動作で撫でる。


正直妹だと言われても実感などわかない。
ましてや義姫が政宗と話すことを許さないだろう。
そんな中で仲良くとは無理な話だ。



「まあいい。不満を抱くのも無理ない」

政宗の父である輝宗は己の妻、義姫が政宗にどんな感情を抱き接しているか知っている。だからこそ輝宗は政宗が気にかかっていた。
実の子である政宗より突然現れたなまえに愛情を持って接する義姫の姿に政宗はどう思うのだろうと。
それだけ心配なのに自分はそれを口に出せずどうすることも出来ない。

「なまえは儂の子でも義姫の子でもない」
「ああ、知ってる」
「しかし義姫は女子を望んでおってな、養子に迎え入れたのだ」



問題はそこだ。

輝宗は世間でいう“お人よし”といわれている。本人もそれを重々承知しているが、今回ばかりはお人よしで済まされる問題ではない。“どこの生まれかもわからない子供”を養子として招き入れるなど前代未聞だ。

「こやつを調べても何も出てこないぞ」
「!」

その一言に眼を丸くし驚いたの政宗だった。

輝宗は知っていたのだ。
政宗がなまえの素性を調べる為に内密で忍びを派遣させたことを。

しかし結果は真っ白だった。ただある村の祠から光を放ちながら現れたという俄かに信じ難い話だけ。それから村の守り神と云われ神の使者として崇められていたようだ。ちょうどその噂を聞き付けた輝宗と義姫が引き取りに来た、と。
しかしそれを信じろというのがおかしい話だ。伊達に仕える忍の能力を過信しているわけではないが、情報を得る能力は非常に高いと自賛しているつもりだ。だからこそ彼らから満足な情報を得られなかったことに驚いた。

「おかしいだろう?こやつはまるでこの世界に存在しない。遡ったところで情報が途絶えると」

そう。それ以上を探ろうにも何も出てこず仕舞い。
出始めが、“光から現れ…”というものだけで何も掴めない。手がかりすらみつからない。

それはまるでこの世界に存在などしなかったように情報が皆無だった。
このままではなまえを認めたくもない神からの使者、またはアヤカシの類と考えるしか選択肢がなくなってしまう。いやそう割り切ってもジョークすぎるだろう。


「あの子は神でも何でもない一人の人間だ。独りなんだ」

“何か”を知っている輝宗は告げる。
どれだけ探しても見つけられないだろうと。これ以上探しても時間の無駄だと。あの少女を認めてくれ、と。

「儂に申したのだ。次元を越えてきたと」

輝宗は少女の言葉に疑いなどしなかった。これが真実で嘘も何もないと少女の言葉を受け入れた。
まさかこの歳で老いが来てしまったのかと政宗は輝宗を疑ったが、輝宗は彼の視線に気づいているように「問題は無い」と笑った。




「ニホンには戦が無く、異国との文化が盛んらしい。そして子供らは学校というものに集まり平等に学を受けておる。あの重たい鉄が飛ぶそうだぞ、人間が鉄に乗って空を飛ぶのだ」
「…は?」

聞いたときは驚いた。
嘘が上手いとか作り話だとか、そんなものは一切考えなかった。
それほどなまえが言った物語は輝宗の想像を越えた話ばかりだったのだ。
考えもしないことを当たり前のように言ってみせる。それこそ、証明に成り得るものだ。



「あれでもお前のように幾分か生きた未来人なのだ」



義姫も知らない。


輝宗となまえだけの秘密。




「わかるか?なまえはこの時代を生きた人間ではない」








それはまるで自慢話であるかのように


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