「可愛いですね母上」
「そうね」

二人は庭を見ていた。なまえが笑えば義姫も口元を緩め微笑んだ。そしてその姿を見つめていたのは、政宗。


みるつもりなどなかった。
みつけるつもりもなかった。

朝から始めた仕事を一段落つかせ、気分転換の為にと目的もなく城内を歩いていたときにその二つの姿を見つけたのだ。すぐに視線をそらしその場を離れればいいものを政宗は立ち止まってしまった。二人はそんな政宗に気づくことなく座り込み瞳に写るそれに会話を募らせていた。

「幸せそうね」
「はい。とても!」

彼女らが見るのは猫の親子。白い毛並みを持った母猫と二匹の子猫。じゃれあう親子の姿にのどかな春を感じ二人は笑みをあふれさせた。

「冷え込んできたわ。さあなまえ、部屋に戻りましょう」
「わかりました」

義姫が立ち上がる。そしてなまえもまた続くように立ち上がり歩いていく義姫を視線で追ったあと、――再び庭へと振り返った。

なまえが見つめる先にいたのは白い猫の親子、…だけではない。白い毛を持った母と子がつつむつましいなか、一匹の黒ぶち子猫がその光景を傍らで寂しそうに二匹を見つめていたのだ。中に入れてもらおうとしているのか子猫はニャアと小さな声を発した。だけれど白い子猫もましてや母猫も振り向こうともしない。
それをみるなまえの表情は息を呑むほど冷たく、さきほどまで無邪気な顔で笑っていたのが嘘のようだった。


「It is ugly. It resemble me.」


そっと囁くように紡がれた言葉は風に流される。それを聞き取った政宗は目を丸くしてなまえをみた。自分の耳が間違っていないのなら確かにそう聞こえた。それは政宗にとって信じ難い光景だった。

ただ漠然と言葉を発したのではない。なまえは意味を理解し、異国語をその口でさらりと言ってみせたのだ。

「なまえ、はようおいで。風邪を引いてしまうわ」
「は、はい!今いきます」

名を呼ばれ、義姫に向けたなまえの顔にはもう冷たい表情などどこにもない。差し出された義姫の手に触れ何事もなかったかのように笑い合う。誰もいなくなった庭先に政宗は立つ。彼の視線にはさきほどの猫達。





「政宗様!」
「…、小十郎か」

そんな彼のもとへよく聞き慣れた声が発っせられた。顔を見ずともわかる主の名を呼ぶ。

「休憩だと申されてからだいぶ時間を潰されましたな。まだ今日の執務が終わっておりませんぞ」
「ああ、悪ィな。今戻ろうとしてたところだ」
「…政宗様?」

小十郎と呼ばれた男はなかなか戻ってこない城主に喝を入れるべく少し声を張らせて言った。するといつもなら「小言は聞き飽きたぜ」という言葉が返ってきたのだが今日は無い。そんな城主に疑問を抱くが、執務室へ向かおうする姿を見てそんな日もあるだろうと割り切り彼の後ろをついて行った。


──醜い。まるで私みたい。

違う。そんなわけがない。あんなガキが使うものじゃない。やはり自分の耳がおかしかっただけだと己れに言い聞かせた。

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